路面電車はシャッター街を救えるのか杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)

» 2012年12月14日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

福井市は賑わいを取り戻す施策を示せ

 こうした流れの中で、福井市長は12月4日の市議会で「左折案」の採用を表明した。「左折案」採用の理由は「駅前の屋根付き広場の動線を拡張できるから」で、「直進案」の場合「JR福井駅から駅前商店街方面の動線が狭くなり、屋根付き広場とバスのりばが分断される」として否定的な意見が多かったようだ。福井市と商店街の対立関係については「説得していく」としている。

 「左折案」の選択は商店街側に配慮した結果のようだ。旅行者の私は直進案のほうが良かったけれど、地域のためという点ではこの選択も悪くない。特に左折案の場合、将来的にその先への延伸も見込める。福井鉄道の駅前電停は単線だから、そのまま延伸して中央大通りへ延伸するとループ線となり、運行本数を増やせる。あるいは福井城址、現在の福井県庁への延伸も可能だ。直進案より未来がある。

 どちらの案にしても、新駅前電停は2線構造になっている。これはとてもメリットが大きい。現在は1線構造の折り返しだが、2線になれば交互発着が可能となって運行頻度を増やせる。将来、延伸した場合のすれ違い設備にもなる。

 あとは、反対する商店街をどう説得していくか、である。私が気になるところは、福井市側が福井鉄道の延伸について、地元商店街に対してメリットを説明していないことだ。商店街側が懸念する「交通の遮断」などについて調査検証するという取り組みは行われている。しかし、それはデメリットを払底させる(かもしれない)だけで、地元商店街にとって魅力的なプランにはならない。

 地元商店街は、JR福井駅から福井駅前電停が離れ、徒歩連絡になっている不便さに魅力を感じているのではないか。地元商店街を歩いてくれたら、そのうちのいくらかは商店街に立ち寄ってくれる。しかし路面電車が駅に直結すれば、そうした人たちは素通りしてしまう。そうした地元の寂しさ、焦燥感に配慮がなければ説得は難しいだろう。示されたプランにデメリットがないだけではダメだ。メリットがあれば賛成するし協力もしてくれそうなものだ。

 例えば、延伸にともなって現在の福井駅前電停を廃止するのであれば、代わりに商店街の駅とは反対側の端、西武福井本館から三井住友銀行あたりに電停を新設する。新駅前電停とその電停の間をワンコイン(100円)にするか、商店街の利用金額に応じて無料にする。駐車券に電車1回無料券をつけてもいい。これで駅前商店街と路面電車を使った観光回遊路が成立する。

 福井市は福井城址を起点として、駅西側を大きく周回する「歴史のみち」整備事業を展開している。駅前商店街はこのエリアに含まれる。ならば、「歴史のみち」の飲食・土産販売・イベントの拠点としてシャッター街を再生するプランも考えても良かろう。こうした「路面電車を取り込んだ楽しい街づくり」という方向性がほしい。

福井市「歴史のみち」整備事業(出典:福井市Webサイト)

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