路面電車はシャッター街を救えるのか杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2012年12月14日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

延伸計画は「シャッター街再活性化」の機運を冷ます

 福井駅前の商店街や事業者などが参加する「福井まちなかNPO」は、福井駅の西側地域の事業者や自治体を通じて実施したアンケートの結果を発表した。回答者は592人で、同地域の在住者のほかに通勤者も含まれている。通勤者の存在がポイントで、他の地域から頻繁に訪れる人たちを含めることで、地域住民だけの意見ではないという意味合いを持たせている。アンケートの結果は延伸案に反対が60%、賛成が8%だった。

 「公共交通利用促進研究会」のアンケートとは正反対ともいえる結果となった。ただしこれは当然で、公共交通利用促進研究会は駅前で「カーフリーデー」の来場者向けに実施した。つまり回答者は「クルマとのつきあいかたを見直そう」とする人々だ。一方「福井まちなかNPO」のアンケート回答者は、路面電車をほとんど利用しない人が78%、路面電車はいらないという意見が65%だった。つまり、ふだんはクルマやバスを利用している人々である。だからどちらも公正とは言いがたい。しかし、福井鉄道延伸に対して2つの意見が対立しているという事態はよく分かる。

 駅前商店街は当初から福井鉄道延伸に反対していた。「左折案」は線路が延伸して駅前の道路を横切る。これはJR福井駅前からの歩行者の動線をさえぎってしまう。また、クルマの動きも制限するだろう。アンケートでも分かるように、商店街は路面電車をアテにしていない。むしろクルマで訪れるお客さんを大事にしている。福井駅西側地域は、430台収容の時間制駐車場が1つ、100台規模の時間制駐車場が2つ。20台以下の駐車場が散在する。

 モータリゼーションや人口の空洞化などによるシャッター街化は、全国の地方都市に共通の悩みだ。福井駅前も例外ではなく、商店街はさまざまな取り組みを実施している。中心市街の新栄商店街は、1960年代は数十店舗が並び賑わっていた。しかし2010年は20店舗に激減。そこで空き店舗に新業態を誘致し、アンティークショップ、写真スタジオ、リラクゼーションショップなど6店舗による「新栄スクエア」をオープンした。また、商店街活性化の一助として、映画のロケにも協力した。付近には今年公開された映画『旅の贈りもの 明日へ』で酒井和歌子さん演じる美容室のオープンセットも作られ、来年の春まで公開されているという(関連記事)

 モータリゼーションによって活気を失った商店街で、ようやく駐車場が整備されたと思ったら、今度は路面電車の延伸によって、クルマでやって来るお客さんが不便になる。これではますます商店街が衰退してしまう。「路面電車はいらない」「いっそ中央大通りに移転してほしい」――素直な意見である。

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