――今回の大統領選挙で一般市民の映像が政治に影響を与えたということはありますか。
キク 映像ではなく、録音ですがあります。
民主党候補のオバマは「man of the people(国民の味方)」という発言があるように中流階級のために戦うことをアピールしていました。それに対して、共和党候補のロムニーは大金持ちのために戦う政治家、ということがあるイベントの参加者が携帯電話で録音した内容で印象付けられました。
イベントでは「米国民の47%が連邦所得税を払っておらず、政府に依存するのが当然だと思っている層だ」と語っているのですが、これによってその47%の国民を敵にしてしまったのです。彼らにとって「自分たちのために働いてくれる政治家ではなくて、大金持ちのために働く政治家だ」ということですね。
ある1人の一般市民が携帯電話で録音したものなのですが、メディアに漏れて、繰り返し繰り返し放映されて、これによって落選した可能性も高かったのではないでしょうか。
米国は経済状況がすごく悪いので、オバマの再選が危ぶまれていました。しかし、この録音によって、ロムニーが大金持ちのための政治家であり、中流階級のための政治家はオバマであるというイメージがすごく強くなったのです。これは本当にオバマの再選を助けましたね。
――米国民はある意味、イメージを押しつけられているようにも思えるのですが、それに対する反発のようなものは起こっていますか。
キク もちろん、そういう作られたイメージに反発したいという気持ちはわいてきますよね。それはメディアだけでなく、普通の国民もそうなんです。
一つの手として、ある候補者のスタッフは、対立候補の様子を常時撮影するスタッフを雇っています。間違えて失言などをする映像を撮ろうというわけです。
将来の大統領候補と言われた上院議員がいました。インド系移民の若者がその上院議員のイベントを撮影していたところ、上院議員は若者を指して人種差別的な発言をしたんです。それはとても印象的なものだったので、すぐにメディアに取り上げられて、何回も繰り返して放送されて有名になったので、もう彼は大統領にはなれないでしょう。
米国の政治家の中でイメージ作りが大事なものになっていて、自分のイメージを何とかコントロールしようとする傾向が強くなっています。そのために失言を恐れるので、メディアは国民が答えを聞きたいような重要な質問を尋ねる機会が少なくなっています。それは悪い傾向ではありますね。
――一部のイメージだけに左右されないように、全部を見ようといった傾向はないのですか。日本だとメディアは会見の一部のコメントだけを使って印象を操作しているという声もあって、野田首相や電力会社などの会見をすべて流すネット生中継を見る人も増えています。
キク そういう状況は米国でも一緒ですね。インターネットのほうが、平等で民主的な場所になっています。もし政治家のスピーチをテレビでは全部見られなくても、自分の好きな時にインターネットですべて見ることができます。
今後についても、インターネットを通じて、もっとも民主的な話し合いが実現すると考えています。ただ、もちろん事実ではない写真や映像が流れることもあるので、そういうことには注意しないといけないですが。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング