米国の政治家はどのようにイメージ作りしているのか――『完璧なイメージ』著者に聞く(2/3 ページ)

» 2012年12月11日 12時30分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

米国の政治家はメディアに頼らずにイメージ作りをする

――政治家は映像ではどのようなイメージを作り出すのですか。

キク まず、共和党であれ、民主党であれ、自分の後ろに米国旗を飾ります。

 そして、これはオバマ独特のことですが、舞台に立つ時にはいつも、さまざまな人種の米国民が後ろに立っていて、いろんな人が集まっているのが米国なんだ、誰でもアメリカンドリームを実現できるんだというイメージを与えています。見る人は気付かないかもしれないですが、その人たちの立ち方やどのように映像に出るかということは、映画制作のようにすごく細かく計算されて作られています。

 こういうシャッターチャンスになるようなシーンを英語では“Photo Op”と言います。そのイメージ作りの技術が米国の政治世界で大事なものであるからこそ、これを今回出版した本のサブタイトル(Life in the Age of the Photo Op)にもしました。

――それは米国特有のことなのですか。

キク 米国独特のものかもしれないですね。政治世界だけでなく、米国社会すべてがそういうことを意識するようになってきました。1980年代のロナルド・レーガンの時代から発展してきて、今ではどの分野でも重要なものになりました。

 日本についてはそれほど詳しくないのですが、今回日本に来て政治家の写真を見たり、スピーチを聞いたり、選挙カーの放送を耳にしたりしました。それで何を感じたかというと、1980年代よりも前の米国の選挙を思い出しました。だから、あまり技術は使われていないのではないでしょうか。

――米国ではなぜイメージ作りを重視するようになったのですか。

キク 映画の言語を使うかどうかは別として、政治家が自分のイメージをコントロールしようとする意識がとにかく強いです。まあ政治世界は本当に映画のようなものでもあるのですが、それはすべての政治家が意識しているでしょう。

 レーガン時代に新しい発見がありました。それはメディアに頼ってイメージ作りするよりも、スタッフなどを使って自分たち自身でイメージ作りをした方が、イメージをコントロールできるということです。

 だから、自由の女神の隣だったり、国旗を背にしたりと場所を選ぶようになりました。そして、メディアにどこから写真を撮るかも指示するんです。ある1つの場所からしか撮れないので、イメージをコントロールできるのです。

『トップガン』

 2003年のことです。ブッシュが戦闘機に乗って、『トップガン』のトム・クルーズのように空母に着陸しました。そして、「Mission Accomplished」という大きな横断幕を後ろに、「米国はイラク戦争に勝利した」とスピーチしたのです(参照画像)。米国では新聞もテレビも、すごくいい“絵”だということで大喜びでした。

 米国では新聞でも雑誌でもブログでも、すべてのメディアが写真を一番大きく取り上げています。言葉より写真が圧倒的に多くあふれています。

 もちろんこういうイメージ作りに励んでいる人が多いので、当然メディアはそれに反発しています。「彼らが作る映画のカメラマンにはなりたくない」と嫌がっているんですね。写真や映像の内容を誰がコントロールするかについて、政治家とメディアとの間で闘争があるのです。

 最近では一般市民という第3のファクターも加わりました。今は誰でもカメラを持ち歩いていて、映像も撮ることができますからね。それに彼らはコントロールすることができないので、今の時代、本当に大事な要素になっています。

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