インタビュー
» 2012年12月11日 12時30分 UPDATE

米国の政治家はどのようにイメージ作りしているのか――『完璧なイメージ』著者に聞く (1/3)

衆議院総選挙の投票日まであと少しとなったが、多くの人の支持を集めなければならない政治家にとって重要なのがイメージ戦略。映像先進国である米国の政治家はどのようなことを行っているのだろうか。『完璧なイメージ: 映像メディアはいかに社会を変えるか』の著者であるキク・アダット氏に尋ねた。

[堀内彰宏,Business Media 誠]

 19世紀初頭の写真の発明に始まり、映画、テレビ、インターネットの動画サイトに至るまで、多くの映像メディアが生まれて、さまざまなイメージを作り出し、それは私たちの日常を大きく変えてきた。

 その代表的なものが政治だ。選挙ポスターでどんな写真を使うか、テレビに映ったときはどんな色のネクタイをして出演し、どんな声の高さ、どんなトーンで話せばいいか……。多くの人々の支持を集めるために、政治家は年々、イメージ戦略を重要視するようになっている。

 政治家のイメージ戦略という点で先進的なのはやはり米国だ。元大統領のロナルド・レーガン氏や、前カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツネッガー氏は俳優出身として知られるし、先日大統領選に勝利したオバマ氏も、綿密なイメージ戦略を持って選挙戦を戦っていた。

 そんな映像が作り出してきたイメージについて分析したのが、ハーバード大学で社会学を教えるキク・アダット氏の『完璧なイメージ: 映像メディアはいかに社会を変えるか』だ。ネット選挙のように、日本の政治でも米国が経験した課題に遅れて直面することがしばしばあるもの。そこで、このたび翻訳版が発売されるのに合わせて来日したキク氏に、米国における政治家のイメージ戦略について尋ねた。

ah_kiku1.jpg キク・アダット氏(左)。夫は『これからの「正義」の話をしよう』で知られるマイケル・サンデル氏(右)

映画の言語を使う政治家たち

――なぜ映像メディアに与えられるイメージに興味を持つようになったのですか。

ah_kiku2.jpg 『完璧なイメージ: 映像メディアはいかに社会を変えるか』

キク 学生時代から映画が大好きで、いろんな国の映画を見ることを趣味にしていました。それで映画を勉強する学校に入って、映画を撮影することになり、写真にも興味を持つようになったのです。

 大学院では社会学の博士号をとりました。映画に興味があったので、映画の中で英雄たちがどういう風に描かれているかということを論文にしました。特に当時のベトナム戦争とウォーターゲート事件に影響を受けて、映画の中での英雄たちの描かれ方に影響があったかということを調べました。

 その時代の米国人では珍しいことなのですが、学生時代はいろんな国の映画を見てきたのですが、自国である米国の映画を見ることはほとんどありませんでした。勉強のために初めて米国の映画を見るようになったのです。例えば、当時は黒澤明監督の『羅生門』を語ることはできたのですが、有名な米国映画の『ダーティハリー』やジョン・ウェイン演じる西部劇(『駅馬車』など)などを語ることはできなかったのです。1970年代に初めて、勉強のために米国で普通の人が見るような人気の映画を何百本も見るようになったのです。

 そうして自国の映画をたくさん見たことによって、米国社会について分かるようになり、特に米国の政治の世界が見えてきて、興味を持つようになりました。

――米国映画とそれ以外の国の映画との間にどのような違いを感じましたか。

キク 米国の映画は、公人を中心に描いているということですね。

 描かれる英雄には2つの種類があります。

ah_kiku3.jpg 『ダーティハリー』

 1つはジョン・ウェイン演じるカウボーイや兵隊、警察官のような一匹狼のキャラクターです。一匹狼でありながら、彼は米国の価値観や自分の属するコミュニティのために戦う英雄ともなります。ルールを批判したり、時には自分の上司に反抗することで、権威にあらがうヒーロー像を提示しています。

 西部劇ではジョン・ウェイン演じるルール破りの保安官が、頭を使って、銃も使って、犯罪者たちから村の住民たちを守ります。『ダーティハリー』ではクリント・イーストウッド演じる刑事が、腐敗したサンフランシスコ市警と対立したりします。英雄が上層部に反抗しながら、何かを守るというのが米国映画のストーリーのパターンです。だから、英雄は刑事でありながら、刑事の職分を外れたこともやります。組織に属するインサイダーであると同時に、アウトサイダーでもあるということです。

 もう1つの英雄はシチズンヒーロ―です。それは刑事やカウボーイのように、暴力で英雄になるわけではありません。ジェームズ・ステュアートが出演した映画(『スミス都へ行く』など)では、民主主義国家の中で生きる普通の市民が英雄として描かれます。ただ、暴力は使わないのですが、組織の中での一匹狼であることは共通しています。

 ロナルド・レーガンが米国大統領選挙に立候補した時、当選すると思いました。なぜなら彼のスピーチの内容は、こうした一匹狼の英雄が描かれた映画の内容を踏まえていたからです。彼は大統領でありながら、政府を批判したこともありました。だから、レーガンが望まない法案が議会が通過しそうになった時、『ダーティハリー』のセリフを引用して、「Go ahead. Make my day(やれよ。楽しませてくれ)」と言ったこともありました。

 ブッシュ大統領も同じく、映画を引用するような発言をしました。アフガニスタン戦争直前、西部劇の決まり文句の「WANTED DEAD OR ALIVE(指名手配! 生死は問わない!)」を使って、ビン・ラディンをつかまえろと訴えました。

 オバマもそうです。オバマは先ほどの2種類の英雄のうち、どちらかというと後者のシチズンヒーロ―に近いです。彼は自伝『ドリーム・フロム・マイ・ファーザー』で、ケニア生まれの父と米国カンザス州生まれの母との間に生まれて、自分の努力によって出世して……という内容を描きました。アメリカンドリーム的な話で、それも映画のようなストーリーですよね。

 米国人には何度も何度も見たような好きな映画の筋があります。だから、政治家もそういう映画の言語を使って成功しているのです。

 また、ジョージ・ブッシュはまき割や、カウボーイの帽子をかぶったりして、そういうイメージ作りもしていましたね。

 オバマの場合はアメリカンドリームのストーリーを意識しているのですが、その筋の1つに貧しい生まれでも成功することができるというものがあります。だから、自分について語る時、自分だけではなくすべての米国人が同じような夢をみてもいい、同じくらい貧しい生まれでも成功することができるというイメージを作っているのです。

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