若手記者はこの本を読め! 小さな地方紙が記したドキュメント相場英雄の時事日想(3/4 ページ)

» 2012年12月06日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

震災の記憶風化を阻止するために

 詳しくは『風化と闘う記者たち』を読んでほしいが、この確認作業の中でも、記者の基礎体力とも言うべき確認作業の徹底ぶりや、憔悴した避難者への心遣いが記してある。

 最近頻発する被害者や当事者に対するメディアスクラムを防ぐ意味合いからも、大手メディアに在籍する若手記者には是非とも読んでほしい内容が詰まっているのだ。

 岩手日報編集局長の東根千万億(あずまね・ちまお)氏が記した冒頭の一文を引用する。

 震災の記憶は日を追って遠ざかる。人間にとって最大の不幸は、存在が忘れ去られることだろう。全国各地から取材に入っていた記者たちも、一周年を区切りに潮が引くように去った。地元紙の記者は他県に去りようがない。そんな私たちに突きつけられたのは、震災記憶の風化をいかにして防ぐかという命題だった〜中略〜

 岩手日報は、震災の記憶風化を阻止するため、大胆な措置を講じた。それが震災犠牲者の一人ひとりの写真と故人を紹介する企画を立ち上げたのだ。

 以下は企画の意義と意気込みについて触れた東根局長の言葉だ。

 亡くなった方の遺族を記者たちが訪ね歩き、故人の人となりに耳を傾け、生前の顔写真を借用して掲載している。犠牲者一人一人の生きた証しを記録することによって尊厳を守りたい。事件、事故で犠牲者の顔写真を掲載する手法は、新聞社にとって基本中の基本である。一枚の写真はその人の人となり、人生を映し出す。活字では表現できない多彩な情報が含まれる

 局長の言葉を、多くの大手マスコミの若手だけでなく、幹部社員が噛み締めるべきではないのか。

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