AKB48は日本製造業の正当なる後継者だ(2/3 ページ)

» 2012年12月05日 08時00分 公開
[坂口孝則,INSIGHT NOW!]
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顧客の声、得票数、無思想

 メンバーひとりひとりの顧客志向もすごい。指原莉乃さんはファンを楽しませるために、1日でブログを100回も更新して3500万ビューを達成した。他のメンバーもGoogle+では過剰なほどに書き込んでいる。ライブに行けば、彼女たちの一生懸命さに、多くのファンが満足して帰宅する。握手会では手がはれても頑張り続ける。

 ファンを差し置いて特定男性と恋愛することは禁止だ。ちなみに、日本製造業が採用したケイレツ発注とは、ケイレツ企業に自社グループだけへの愛を誓わせるものだった。恋愛禁止、グループへの忠誠、ファンこそ恋人、というAKB48はかつての日本型製造業にそっくりではないか。

 すべてはファンのため。「顧客志向」が貫徹している。

 顧客の声を優先することは、徹底した無思想に支えられている。自分たちの考えではなく、顧客こそが正しいとする無思想。少人数の顧客にだけ売れるこだわりではなく、多数に売れることこそが正義なのだ。「ヒットはすべて正しい」のである。その意味で、AKB48総選挙は、センターを人気投票だけで選抜する徹底した、そして優れた無思想システムだった。

 自動車は歴史を経て、単なる移動手段から嗜好品になった。機能だけを追い求めるだけではだめで、移ろいやすい消費者の心をつかむ必要がある。そして、それは自動車だけではない。ほかの商品も同じだ。

 かつてのソニーやパナソニックやホンダは、創業者がミカン箱の上に立ち、自社を世界的な企業にしてみせると社員の前でスピーチし、苦労と努力を重ねながら夢を実現させていった、ある種の「物語」を持っている。彼ら創業者(井深大氏・盛田昭夫氏、松下幸之助氏、本田宗一郎氏)は、自社商品以上に有名だ。商品が嗜好品になるにつれ、お客が商品を選ぶ際に重視するのは、この「物語」になっていく。

 恐らく、AKB48の総選挙を見て泣いた人がいるとすれば、彼女たちひとりひとりの「物語」に共感したからだろう。人々の関心は、企業を作り世界に羽ばたいた起業家物語から、アイドルの立身出世物語に移ってきた。AKB48は楽曲とライブを売りにしているのではない。メンバーの人生を販売しているのである。

 ソニー創業者の井深大氏・盛田昭夫氏のスピーチに感銘を受けたのが、アップルのスティーブ・ジョブズで、彼はプレゼンの名手となった。本場日本では、AKB48がスピーチのたくみさを受け継いだ。AKB総選挙を見ても分かる通り、彼女たち並みにスピーチがうまい人たちを探す方が難しい。

 私がAKB48を「日本製造業の正当な後継者」と呼ぶのは、こういった類似性がある。

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