3つ目のゲームやネット分野への進出だが、こちらは先ほどのインタラクティブ部門の売り上げを見ても分かるように、さほど積極的とは言えない。事業自体は1997年からスタートしているのだが、売り上げは横ばい状況だ。これはゲームやネット事業については、「ディズニーの主食ではない」という判断から来ているのではないかと思われる。
もちろん、キャラクターをさまざまなゲームに対してライセンスしたり、映像や音楽をiTunesなどの配信プラットフォームにライセンスしていたりするのは確かだが、自らイニシアティブを取ろうとはしていない。これを保守的とみるか賢明な判断と見るかについては、もう少し時間が必要だろう。
以上、ディズニーが買収によって求めてきた3つの事業について解説してきたが、日本ではディズニーというとディズニーランドを連想する人が多いのではないだろうか。
ディズニーで働いていた私の友人が、ビジネス以外の機会に「ディズニーで働いている」と言うと、その相手の8割ほどが「ディズニーランドですか?」と聞いてくるそうだ。米国でディズニーといえば、スタジオを中心としたエンタテインメントの最高峰と思われているが、日本で圧倒的にディズニーランドのイメージが強いのである。しかし、実際にはここまで述べてきたようにスタジオエンタテインメントのクリエイティブを核とする、放送事業中心の垂直統合メディア企業なのである。
ディズニーを企業として見ると、2011年の売り上げは1ドル=80円で計算すると3兆2640億円、純利益3846億円の大企業で、米国では66位(2012年版アメリカ企業番付「FORTUNE 500」参照)。49位のコムキャストがNBCユニバーサルを買収したので、エンタテインメント&メディア・コングロマリット部門では首位を譲ったものの、エンタテインメント企業としては世界最大である。
ディズニーの売上規模を日本の企業の中で比較すると27位。KDDI(日本25位)やキヤノン(同26位)、ソフトバンク(同28位)などと同じレベルである。人間が生活していく上での必需品とは考えられていないファンタジーだが、人間の精神的営みとして案外欠かせないものなのかもしれない。
一見死角がないように思えるディズニーだが、意外と日本で苦戦している側面もある。それは劇場アニメーションだ。
次表はピクサー作品の日米興業収入。いずれの作品も米国で大ヒットしているが、日本ではっきり成功したと言えるのは、『トイ・ストーリー』『ファインディング・ニモ』『モンスターズ・インク』だけ。特に今夏公開した『メリダとおそろしの森』は10億円を突破できない屈辱的な結果に終わった
また次表はディズニー作品の日本での興行収入だが、本国でも調子はいいと言えないことも手伝ってか、数字が伸び悩んでいることは一目瞭然である。
ディズニーランドは日本でも絶好調なのに、なぜ劇場アニメーションの数字は伸び悩んでいるのか。それは、やはり日本のファンタジーのメインストリームにアニメが存在していることと無縁ではないだろう。
このように日本コンテンツが優勢となる現象は、音楽において顕著である。今から30年ほど前までは邦楽と洋楽の売り上げは拮抗(きっこう)していたのだが、1980年代に一気に邦楽が伸びていく。つまり、消費者は日本製の音楽で満足するようになったということだ。
スタジオジブリ作品に代表される日本製劇場アニメに象徴されるように、音楽と同じ現象がアニメでも生まれ、しっかりと根付いてしまったため、1990年以降に大復活したハリウッドアニメーションにも席巻されなかったのではないだろうか。
今年最後となる次回は、さまざまなことがあった2012年のアニメビジネスを総括してみたい。
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
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