オバマのキスを拒絶するスーチー女史の本音――ミャンマーで何が起きている?伊吹太歩の世界の歩き方(1/4 ページ)

» 2012年11月29日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

著者プロフィール:伊吹太歩

世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材し、夕刊紙を中心に週刊誌や月刊誌などで活躍するライター。


 バラク・オバマ米大統領が米大統領として史上初めてミャンマーを訪れた。数年前まで誰がこの訪問を想像できただろうか。それほどのニュースだった。米大統領が訪問するというのは、世界唯一の超大国がその国をとても重要な国だと考えているというメッセージになる。

 ところがオバマは、今回の訪問でいくつか失態をさらした。まず民主活動家で今は国会議員であるアウンサンスーチーという名前をきちんと発音できなかった。世界で最も有名な女性活動家の1人でノーベル平和賞の受賞者である。

 オバマは彼女を何度も「アウン“ヤン”スーチー」と呼んだ。しかもスーチー宅で会談を終えたばかりの共同記者会見で、である。その映像を見ると、思わず吹き出してしまうような間違いだ。言い慣れていないのだろうが、ここまで注目される訪問で米大統領が相手の名前を言えないのは問題だろう。

 さらに大統領であるテインセインという名前も間違って使った。「セイン大統領」と呼んだのだ。ミャンマーではテイン・セインは1つの名であり、セイン大統領と呼ぶのは正しくない。「テインセイン大統領」と呼ぶのが正しいのだ。AP通信も、その間違いをすぐに指摘した。

 また一部メディアは、オバマが国名を、これまでのビルマから初めてミャンマー(軍政が変更して定めた名前で、米国はこれまで軍政を認めないという理由から、ミャンマーという国名を使ってこなかった)と呼んだことを取り上げた。

 先に書いたような認識をみる限り、オバマはただ間違ったのではないか、もしくはそんなに問題を認識していないのではないか、といぶかしんでしまう。どちらかといえば、ミャンマー政府に対しての「リップサービス」に近いともとれるが……。ちなみにスーチーは、今でもビルマで通している。

 オバマはスーチーとの会見終了時に彼女の両ほほに情熱的なキスをした。欧米人が挨拶で行うキスだが、決して軽いキスではなかった。どちらもノーベル平和賞受賞者で、そうした親しみの現れなのかどうかは分からない。ただそのキスは当然、アジアのメディアで取り上げられた。

 アジアではほほにキスをするという習慣はない。かつてインドでは、米俳優のリチャード・ギアが、ステージでインド人女優のほほにアツいキスをして、抗議デモに発展したことがある。アジアにはそうした保守的な空気が残っている部分もあり、今回のオバマのキスはエチケットとしてどうなのかと物議をかもした。

 スーチーが英国人と結婚して、海外に暮らしていた過去などは関係ない。欧米の影響が強い日本ではまだ寛容的だろうが、東南アジア諸国では違和感を持つ人が少なくない。オバマは少なくとも、イスラム国家の女性閣僚や高官などのほほにキスはしないだろう。下手したら死刑宣告のファトワ(宗教令)が出かねない。

 という具合に注目を集めるミャンマーだが、根本的な話として、ミャンマーは何故ここまで話題になっているのか。

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