優れたアイデアは充実した生活から生まれる

» 2012年11月28日 08時00分 公開
[松尾順,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:松尾順(まつお・じゅん)

早稲田大学商学部卒業、旅行会社の営業(添乗員兼)に始まり、リサーチ会社、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャー、システム開発会社などを経験。2001年、(有)シャープマインド設立。現在、「マインドリーディング」というコンセプトの元、マーケティングと心理学の融合に取り組んでいる。また、熊本大学大学院(修士課程)にて、「インストラクショナルデザイン」を研究中。


 現在、日経新聞で連載中の私の履歴書はオムロン名誉会長の立石義雄氏ですね。

 その中に自動改札機開発についての秘話がありましたが、自動改札機の開発において課題となっていたいくつかの事項は、開発担当者の趣味・余暇の時間に解決策につながるアイデアが生まれていたことが明かされています。

 まず、小さな切符に乗車区間や料金などの情報を搭載し、また機械に瞬時に読み取らせる技術開発についてのひらめき。

 開発チームリーダーの田中さんが、ある日、自宅で音楽を聴いていたそうです。当時はまだオープンリールのテープレコーダーだったようですが、プラスチック製テープに磁気が塗ってあるのをみてひらめきました。すなわち、音楽テープと同じように、切符の裏に磁性体を塗ることで情報の搭載と読み込みが可能となったのです。

 次に、自動改札機に投入された切符が、横になったり、斜めになったりしてうまく出口まで運べないという問題の解決につながるひらめき。

 機械担当の浅田さんが、久々の休日に子どもを連れて渓流釣りに行った時のこと。川面を流れてきた竹の葉が岩にぶつかってくるっと向きを変えた時にひらめいたとか。すなわち、自動改札機の投入口の近くに岩に見立てた駒を置くと、切符がきれいに縦にそろうようになったのです。

 このように、何らかの仕事上の問題の解決につながるひらめきは、仕事とはかけ離れた場所や状況において得られることが多いものですね。

良いアイデアは異質なものの組み合わせから生まれる

 同じようなことが、日経産業新聞のコラム、「実践WLB(ワークライフバランス)経営」(2012年11月13日)にも書かれていました。

 おもちゃメーカーA社でヒット企画や商品を生んでいるエース級の社員のうち、退社時間が早い3人がどのようなライフ(生活)を送っているかをインタビューしたところ、A氏は異業種交流会に積極的に参加し、B氏はコンサートやアートギャラリーに足を運び、C氏は自宅近くの公園に子どもたちと行き、自社のおもちゃを近所の子どもたちが遊んだり壊したりするのを観察……といったように、仕事以外のライフを楽しむ、また活用することで、斬新なアイデアを得ていたことが分かったのです。

 そもそも優れたアイデアや使えるアイデアは、「異質なもの」の組み合わせから生まれます。ですから、普段からできるだけ多様な経験・情報を得るように心がける必要があります。

 逆に、目先の仕事があるからと、朝から晩まで、あるいは休日まで出勤してデスクに座っているだけだと、良いアイデアはまったく出なくなってしまうでしょう。

 ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏が、以前TEDのプレゼンテーションで「日本企業の人たちは働きすぎ、会社にこもってばかりいるから、ヒット商品のアイデアが出なくなる」といった趣旨のことを指摘されていました。

 まさに、今の日本企業において魅力的な商品が見当たらなくなったのは、あいかわらずの長時間労働を強いられ、ライフが充実していないからなのかもしれません。?(松尾順)

 →松尾順氏のバックナンバー

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