今、“ロイヤリティ経営”が注目されるワケ儲かっている企業にはワケがある(4/4 ページ)

» 2012年11月28日 08時00分 公開
[渡辺聡、佐々木靖人,Business Media 誠]
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なぜ「行うは難し」なのか

 最後になぜ「行うは難し」なのか、改めて考えてみましょう。

 事例としてインターネット接続サービス業界を挙げたので、それに近い通信業界、特に携帯電話について考えてみましょう。携帯電話といえば、iPhoneを代表とするスマートフォンへの大きな流れで、連日ニュースにわいている花形業界であることは言うまでもありません。

 2006年に始まったMNP制度の後押しもあって、大手キャリア間の販売競争は激しさを増す一方です。露骨なものになると、「他社携帯から移ってきたらその場で○万円差し上げます!」と現金が飛び交うような状況になっています。テレビCMでも「新規契約だと○万円割引」と、ディスカウントを提示する例が目立ちます。

 一方、不満が高まりつつあるのが各キャリアを長年使ってきたロイヤルユーザー層です。「競争するのはいいけれど、長年の付き合いを放置して、新規顧客向けにばらまくのはいかがなものか」という声をネットでも結構な頻度で見るようになってきました。

 通信業界に限らず、日本企業は大手メーカーを代表として、「職人的なモノ作り+マスを中心に宣伝で攻めてシェアを取っていく」という動き方を1つの勝ちパターンとして行ってきました。高度経済成長のタイミングともかみ合ったことで、歴史上例がないほどの経済発展を成し遂げられたのです。この間、ロイヤリティや既存顧客の維持というのは理屈としては理解はされていたものの、経営技法として採用されることは特に大手企業ではそれほどありませんでした。

 しかし、1990年のバブル崩壊から“失われた10年(もしくは20年)”に入り、「マクロ経済の成長鈍化からフラット化」「マス中心のメディア構造からネット的な分散構造へ」「デフレ傾向を伴った需要の継続的な弱含み」といったところから、日本全体として内需競争では次々と新しいお客さんを探してくるモデルは回しづらくなっています。ここ1〜2年の日本の大手電機メーカーなどは、もうからないどころではなく、会社を維持できないレベルにまで達してしまっています。

 こうした中、何とか立て直しをしようとして出てきているのが、「次々とお客さんをつかまえて回していくのではなく、今いるお客さんでしっかり商売を回して、まずは足腰を強くする。つぶれてしまわないように、あくせくして疲弊してしまわないためにはどうすればいいか?」という経営サイドの問いです。現実味のある事業の身の丈サイズをめぐっての、「自分たちにとってのロイヤリティ経営とは何か?」という問いかけでしょう。

 ロイヤリティ経営を実現しようとすると、現場のちょっとした改善では済まず、組織の組み方から周囲との取引方針まで、会社の大きな機能や振る舞いを見直す必要が出てきます。朝日ネットについても、お話をうかがうと「組織改革や経営改革に腰をすえて実現できた」ということで、概念のシンプルさと裏腹に一朝一夕で実現できるものではありません。

 施策としての注目度が高い一方、実現例がそこまで多くないのは、恐らく理屈のシンプルさと裏腹の実現難度の高さゆえでしょう。結局はビジネスモデルの組み換えには至らず、営業施策の改善程度にとどめるなど、部分解で落ち着かせてひとまず終わりとしている企業も珍しくありません。

 しかし、実現した際の効果もはっきりしていることから、一区切りつけた後に継続策の検討に入る企業もよくあります。事業モデルを完全に組み替え、ロイヤリティ概念を軸にビジネスのあり方を刷新できるケースが今後どれだけ増えてくるのか、引き続き注目していきたいと思います。

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