敬老会補助に銭湯無料券……千葉市が行ってきたバラマキ事業最年少政令市長が経験した地方政治改革(2)(3/3 ページ)

» 2012年11月22日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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高齢者層へのバラマキ?

熊谷 国の事業仕分けが有名になりましたが、我々はそれよりも先に事業仕分けをやりました。その事業仕分けの委員をやっていただいた方が今(講演当時)、消費者庁長官を務めている福嶋浩彦さんです。福嶋さんは我孫子市長を3期務めていて、内部の論理をよく分かっていらっしゃる方です。

 福嶋さんを中心に事業仕分けをしていたのですが、最後の方になると福嶋さんが「やめていいですか」と言ってきて、「何でですか、もうちょっとで終わりますから」と話したら、「いや、実は国の方の事業仕分けをやることになっちゃいまして」ということで、国の方の事業仕分けをされたら評判が良くて、そのまま消費者庁長官として一本釣りされることになります。

 国の事業仕分けとちょっと違うのは、我々はパフォーマンスがメインではないので、事前に見直したい事業を市民に公表しました。これに対して、利用者ややめてほしくない人もたくさんいるわけです。そういう人たちからの声を透明性の高い形で聞こうということで、市民から意見聴取できる形にして、事業仕分けの時にそういう声も併記する形で仕分け人に見せました。傍聴も可能で、時間が余ればそういう方々に発言の機会も与えました。障害者関係の補助などの福祉はあまりドライにやり過ぎると死活問題のようなものもあります。そういう意見も聞いた上で、切るべきか否か判断することをやりました。

 これはNHKなどでも取り上げられたのですが、結果的に廃止する事業など大幅な見直しが提言されました。例えば、見直し対象となった事業ですが、行政は票を集めるため、もしくは市民の歓心を得るためにいろんなことをやってきているんですね。

 その1つに敬老会の開催補助があります。敬老会を開催するに当たって、その地域にいる70歳以上の人数×830円を出すんです。これはいくつか問題点があって、まず1つは70歳という年齢を昔から変えていないんです。30年前は70歳というと長寿だったかもしれないですが、今の平均年齢は男性が79歳、女性が86歳です。平均寿命にもなっていないような人たちに出す理由は何なんだと。

 一応説明があって、家から出てくるから外出の機会になると。1年に1回ですけどね。それからお年寄りたちが一度に集まることで横のつながりが生まれる……というような、いろんな理屈が付いてくるのですが、そんなものは全部後付けです。

 後付けだけども理屈としては一応いいとして、おかしいのは敬老会に来なかった人にもお金を出しているんです。敬老会に来なかったら、紅白まんじゅうやタオルなどを民生委員が一軒一軒わざわざ届けにいくわけです。

 これは何の説明にもならないんですね。敬老会に来る人に支給するのはまだ分かりますよ。さっき言ったように、いろいろおかしいですが外出支援になるので。ただ、これは絶対あり得ないですよ。こういうのは単なるバラマキです。

 実は敬老祝い金という別の事業もあるんです。これは77歳、88歳、99歳の節目になった人たちに1〜5万円のお金を出すというものです。少し前までは70歳以上全員に毎年7億円とか出していたんです。絶対ありえないですよね。みんな投票に行きますから、ばらまいた方が喜ばれますよね。

 今でも77歳、88歳、99歳の時にお金を出すと、「市長様ありがとうございます」という手紙がたくさん届くんです。別に私のポケットマネーで出しているんじゃないんです。でも、“千葉市長熊谷俊人”で祝い金が出るので、何となく施しを受けた感じになって投票するわけです。よくできているシステムですが、私物化ですよね。これもいずれ見直ししていこうと思っています。

 こういう事業があるにも関わらず、70歳以上の方々に毎年敬老の日に紅白まんじゅうなどが届くわけです。敬老会に行かなくても。こんなのはやめるべきなんです。

 我々は第一段階として、70歳以上を75歳以上に引き上げさせてくれ、830円を500円に削らせてくれと、平成22年度予算で出しました。すると議会が「ちょっとお年寄りに厳しいんじゃないの」ということで、でもあまり予算にいじる幅がなかったので、500円を650円まで戻したら、議会レポートで「市長の横暴を我々が止めた」「お年寄りに厳しいのを我々が止めたんだ」と喧伝されました。

 私も当時はお年寄りの一部から「市長が削ったんだよね」と言われました。「私が削りましたよ、おかしいから」と言いましたが。また、お金持ちの方々が住んでいることで有名な高級住宅街の敬老会に出た時、帰りに「市長、あれ何とか戻してくれない」みたいなことを言われて、「あなた、もうお金十分持っていますよね。こういうこと言っているからダメなんですよ、この国は」みたいなことになりました。

 でも、これは千葉市だけの話ではないんです。こんなのは全国的に行われているんです。お金のあった時代に作って見直しせず、投票に必ず行く人たちにばらまかれる施策が温存されまくっているわけです。こういうのは議員が監視してこれなかったので、市民が監視しないといけない。議員はむしろ増やす側にいたわけですから。

 2つ目はシルバー健康入浴事業。これは65歳以上の独り暮らしの高齢者の方に、銭湯の無料券を年間48枚支給する事業です。銭湯に行くとお年寄りの気持ちも良くなる、外出支援になる、48回お風呂に入りにいくことで外出の習慣ができるといった理屈です。

 そんな理屈で毎年6000万円支出していたのですが、これもほとんど枚数をなくしました。なくすに当たって、これも議会から「減らすべからず」という請願が出ました。「老人のために大変重要なものであるからして、ダメである」みたいな、私を応援した会派も含めて全会一致でなくすべからずとやられて、枚数減らす分を緩和したりしましたが、そういう世界でした。

 もう1つ、これが私は一番すごいと思うのですが、針きゅうマッサージ施設利用補助です。これは一人暮らしという制限もなくて、65歳以上のすべての人が針きゅうマッサージを受けに行くと、上限24回で1回800円割引されるということです。「何で針きゅうマッサージなんだ」と思いますよね。ほかにもいっぱい健康支援があると思うのですが、針きゅうマッサージは割引が受けられるんです。毎年1億5000万円です。

 これをなくそうとしましたが、針きゅうマッサージ業界からすさまじいまでの反発がありました。それはそうですよね。年間1億5000万円が針きゅうマッサージ業界に流れるわけですから。1施設あたり、だいたい数百万円です。これがなくなってしまうわけですから、彼らにとっては死活問題です。ただ、我々は業界を生き残らせるためにやっているわけではないので、そんなの知ったことではないとなるわけですが、そこにまた議会、議員が絡んでくるわけです。大変でしたが、これもなくなりました。

 これは一例ですからね。ほかにもいっぱいありますよ。私が市長に就任して最初の予算で、60〜70くらいの見直しを並べたものを作ったら議会がびっくりしてしまったのですが、先ほど申し上げたように一部修正はありましたが、通していただきました。私はひょっとしたら否決されるかと思ったのですが、この平成22年度予算が通ったのがすごく大きかったです。

 でも、市長に当選してすぐが一番求心力があるんです。私は圧倒的な得票で当選していますから(次点に5万3069票差の17万629票で当選)、その当時、誰も歯向かえないくらいの雰囲気があったわけです。後でやったらダメなので、この時に一番不評なことをやらないといけないということで、とにかく全部突っ込みました。

 議員にとってみれば、かなり認めたくない予算なわけです。彼らも苦しいわけですよ。支援者がいっぱいいるわけですから。決して彼らもひどい人たちなのではなくて、いろんな気持ちがあった中で、最終的には一部の修正だけで認めてくれたんですね。これは大きかったですね。一部ちょっと逃げましたが、彼らも橋を一緒に渡ってくれたという意味で、ここでほとんどのスリム化が終わったという感じでした。あまりテレビなどでは取り上げられなかったですが、地元メディアでは深夜まで及ぶ大闘争ということで、結構報じられました。

 いずれにしても我々は平成22年度に49億円削減して、平成23年度に24億7000万円削減し、平成24年度に21億5000万円削減と、ほぼ100億円近く身を削りました。我々の一般会計は3500億円ですから、相当な規模の金額を削りました。

 →第3回「『市長、俺だよ俺!』 千葉市の税金を滞納する人々」に続く

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