本屋が私を育ててくれた――小さなアドバイスで恩返し郷好文の“うふふ”マーケティング(2/3 ページ)

» 2012年11月22日 12時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

おすすめだけで買うにあらず

 いまや書店に入ればPOPは当たり前だ。「書店員のおすすめPOP」が平置きや棚にある。POPを競う業界コンテストもある。POPは本との出逢いを導いてくれてありがたい。大手書店「ジュンク堂」のWebサイトには「書店員の超おすすめ本」リストもある。

 だが「書店に来てくれてナンボ」である。大書店と違い小さい本屋の問題は「立ち寄りの減少」である。がんばって書いてもどれだけ効果的だろうか? もうひとひねりほしい。

 「紀伊国屋書店新宿本店」の「本の闇鍋」フェアはおもしろかった(2012年夏)。本の書き出しだけをデザインした手作りカバーに密封して本を販売。開けて中身と初めて出逢うという演出でヒットした。

 最初の一行には著者の思いが詰まっている。それが響けば中身も響く。ヘタに感想文で誘導するより、本という商品の本来の魅力を前面に出した。しかも包んで中身を見せないという「暴挙」がいい。人は「本を知って買う」のではない。何が読めるか分からない、でも期待できそうだ。だから買う。

気骨ある本屋には思想がある

 千駄木の小さな書店「往来堂」の品ぞろえ、陳列にはうならされる。文庫新書という本の種別でもなく、ジャンルでもない。「関心」がどんどん広がる仕掛けがある。どうやら「核となる本」から、各コーナーの書籍――雑誌、ムック、文庫、単行本――を自由に組み立てている。

 長野駅から善光寺へ上り坂の途中に「遊歴書房」という小さな古書店がある。地元の建築家らが元ビニールハウス製造工場を改装した建物の一角。その並べ方は「世界をめぐる」コンセプト。西から東へ、アジア、米国、欧州……と、小さなスペースなのに世界一周ができる。しかも、どれも手に取りたくなる品ぞろえ。

 この2店には「買わされた」。本屋ってコンビニエンスストアだろうか? 見つけて買ってサヨウナラ。違う。思想商品なのだから、売りにも思想があるべし。出版社や取次の営業マンから仕入れる思想は受け売りだ。店主自身の思想を見せてほしい。

本屋本屋 (左)往来堂には通いたくなる(右)蔵書の館のような本屋さん

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