“アニメ”化するハリウッド映画アニメビジネスの今(2/5 ページ)

» 2012年11月20日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

50年以上前のハリウッド人気作品

 もちろん、ハリウッド映画は昔からファンタジー&キャラクター志向だったわけではない。例えば、次表は1960年の北米興行収入だが、「Fantasy」「Sci-Fi」「Animation」というジャンルは見当たらない。その代わり、「Adventure」「Action」「Comedy」「Drama」といったジャンルが主流になっている。

 当時の映画はスターで見せるということが主流で、今のようにCG技術でファンタジー世界やアクロバット的アクションを表現することはなかった。ハリウッド全盛時代から続くスターシステムが根強く残っていたのだ。

 『サイコ』『のっぽ物語』は1960年代を代表する青春スターで女性に絶大な人気があったアンソニー・パーキンス、『スパルタカス』は円熟期に差しかかっていたカーク・ダグラス、『栄光への脱出』は3度のアカデミー賞に輝くポール・ニューマンが主演。大作映画は大スターが主役を張るというのが常識であった。

1960年北米興行収入ベスト10、UA=ユナイテッド・アーティスツ、MGM=メトロ・ゴールデン・メイヤーズ

ハリウッドにおけるファンタジー作品の広まり

 ハリウッド映画の黄金期は1930〜1940年代。世界中が未曾有の恐慌に苦しむのをものともせず、この世の春を謳歌(おうか)していた。そんな時代のテーマは、ストレートな「ドラマ」「コメディ」「ミュージカル」「冒険」「アクション」「ウエスタン」「戦記」「ロマンス」といったもの。もちろん、「ファンタジー」「SF」「アニメーション」もあるにはあったが少数派だった。

 そんな映画界で、ファンタジー世界をいち早く映像化したのがジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』(1902年)である。その後、1906年に世界初のアニメーション『愉快な百面相』が誕生し、二次元におけるファンタジー世界を表現した。実写では『メトロポリス』(1926年)、『キングコング』(1933年)、『オズの魔法使い』(1939年)などがあり、『白雪姫』(1937年)から始まる一連のディズニー・アニメーションも続くが、全体としての数はやはり少なかった。

 その後、1950年代からのSF映画ブームで『月世界征服』(1950年)、『地球の静止する日』(1951年)、『ゴジラ』(1954年)にも大きな影響を与えたレイ・ハリーハウゼンのストップモーション作品『原子怪獣現わる』(1953年)などが登場。1960年代には『ミクロの決死圏』(1966年)、『2001年宇宙の旅』(1968年)、『猿の惑星』(1968年)といったレベルの高い作品が生み出されるようになり、ファンタジーやSFに対する社会的認知度も高まってきた。

※ストップモーション作品……人形などの立体物をコマ撮りすることによって制作される作品。

 そして、ジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグといったコミックやアニメーションに偏見を持たない新世代の監督が登場することで、ファンタジーやSFが映画の主役となる。彼らの『スターウォーズ』(1977年)や『ET』(1981年)といった作品が大ヒットしたことで、リドリー・スコットの『ブレードランナー』(1982年)やジェームス・キャメロンの『ターミネーター』(1984年)、ロバート・ゼメキスの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)のような、ファンタジーやSF要素の強い作品が増え始める。

 そして、1990年代にCG技術が大きく進化したことで、映像の表現領域が一気に拡大され、ファンタジー&SF映画が大きく発展する。その象徴的な作品が『ジュラシック・パーク』(1993年)だろう。この作品が与えた衝撃は大きく、現実と空想の間にあった表現の壁は消し飛んでしまった。表現できないものがなくなり、想像力をおさえる必要がなくなったのである。

 CG技術の飛躍的な発展によって、『ジュラシック・パーク』から2年後の1995年には、年間興行ベスト10の半分をファンタジー系作品が占めるようになる。ベスト10の20〜50%を占める状況は2000年まで続き、2001年からはメインストリームとなるのである。

1995年北米興行収入ベスト10

「ファンタジー映画元年」となった2001年

 2000年と2001年の北米興行収入ベスト10を比較すると、ハリウッドの映画会社が一斉にファンタジー作品にかじをとった様子がよく分かる。ファンタジー系作品は2000年には2作品だったが、2001年には7作品に急増する。

2000年北米興行収入ベスト10、Mira=ミラマックス
2001年北米興行収入ベスト10、NL=ニュー・ライン・シネマ

 しかも、ワーナー・ブラザーズが『ハリー・ポッター』、ニュー・ライン・シネマが『ロード・オブ・ザ・リング』、ドリームワークスが『シュレック』、ピクサーが『モンスターズ・インク』、ユニバーサルが『ハムナプトラ』、20世紀フォックスが『猿の惑星』とメジャー各社の威信をかけた大作ばかりである。『ハリー・ポッター』『ロード・オブ・ザ・リング』『シュレック』『猿の惑星』はその後シリーズ化された第1作目なので、2001年は「ファンタジー映画元年」と呼んでもいいのではないだろうか。

 ファンタジー系作品はベスト10のうち、2002年には7作、2003年は9作と常に半数以上を占めるようになり、遂に2010年にベスト10を独占するという状況にまでなったのである。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.