鉄道の不祥事から、何を学べばいいのか杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)

» 2012年11月16日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

三河島事故の教訓で開発された防護無線システム

 防護無線装置開発のきっかけは、1962(昭和37)年5月3日に起きた三河島事故だった。貨物列車が赤信号を通り過ぎた場合、列車が本線に入らないように分岐ポイントを切り替えて、列車をわざと脱線させる仕組みがある。これを「安全側線」という。

 安全側線といえば、今年(2012年)11月8日、、三重県の三岐鉄道で電車が脱線した。これも赤信号を通り過ぎたために安全側線に誘導され、脱線させた事例だ。少しさかのぼって、今年2月にはJR北海道の石勝線東追分駅で貨物列車が脱線している。これも安全側線に誘導されたためだ。「本線に入ってほかの列車と衝突するくらいなら、脱線させてでも停めてしまえ」という考え方である。

 安全側線の先は砂利を積んだり、柔らかな土だったりする。レールをスイスイと走る列車も、レールを外れたら自重と摩擦の大きさで動けなくなる。だから安全側線で脱線しても、大きな被害になりにくい。

 しかし、三河島事故の場合、安全側線で脱線した車両たちの勢いが大きく、機関車とタンク貨車が下り本線にはみ出した。そこへ下り電車が衝突して脱線し、さらに隣の上り線をまたいでしまう。その数分後、上り電車がこの地点に差し掛かり、下り電車に衝突する。互いの電車の先頭車が大破、避難のため線路に降りていた下り電車の乗客たちを轢(ひ)き倒し、いくつかの車両は高架下へ転落した。死者160名、重軽傷者296名といわれている。

 国鉄は三河島事故の反省から、赤信号を突破した車両に自動的にブレーキをかける装置(ATS)の全国展開を早めた。併せて、各列車に発煙筒と軌道短絡装置(レールに設置して強制的に赤信号を表示させる)を常備させた。その上でさらに、周囲の列車に危険を知らせるための防護無線装置の開発に着手する。

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