もんじゅ元所長“ミスタープルトニウム”が語る原発推進論(4/4 ページ)

» 2012年11月15日 00時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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――先日の『クローズアップ現代』で、原子炉の解体に関わる人材が不足している問題が取り上げられました。原子炉解体の人材の確保ということについて、どう思われますか。

菊池 これは(解体の)やり方によると思っています。廃炉にしても、福島第一原発の1〜4号機の解体と、通常の原子力発電所の解体は基本的に違います。通常の場合、まず燃料を全部抜いて、燃料のない状態の中で順次やっていくので、それほど特殊な技術がいるわけではなく、作って運転する時ほど特殊な人材を養成しないといけないということはありません。これはほかの産業と同じようなマンパワーでやっていけると思っています。

 福島第一原発の1〜4号機の場合には、残った破損している燃料をどうするかということです。これは今まで経験のないことです。やった経験があるとすれば、私がいたJAEA(日本原子力研究開発機構)の再処理工場、もしくは燃料を切り刻む研究をしているホットラボです。そうした実際に強烈な放射線を出す燃料を扱った人たちの技術を融合させていこうということになっています。これはいろいろ記事にも出ていますが、1〜4号機解体のための大きな組織が作られていくと思っていますし、それがなければできないだろうと思います。

――政府関係者なども公言していることですが、原子力発電を必要とする1つの大きな理由は兵器を作るために、そのような技術を持ち続けなければいけないということです。これは日本にとって重要なことだと思いますか。

菊池 基本的に日本の場合はIAEAのセーフガードのもとに、文民統制としてやっています。それと同時に昨今、「原子力委員会をつぶせ」という意見があるのですが、原子力委員会は本当は平和利用担保のために存在する委員会なので、「昨今の議論はちょっとおかしいんじゃないか」と思っています。平和利用を担保するための委員会として発足しているわけですから、その平和利用を監視する意味からも、原子力委員会の存続というのは非常に重要だろうと考えます。

 周辺国がどういう風に受け取るかについては、まったく別の問題です。例えば、日本は宇宙ロケットがあるし、プルトニウムもたくさんあるから、多分できるだろうと周りが思うのは、勝手な話です。

 今、使用済み核燃料を再処理してから出てくるプルトニウムでは、燃える部分は60%ほどしかありません。核兵器では90%を超えていますので、作ろうとすると極めて効率の悪い難しい材料を使うことになるんですね。同じプルトニウムでもかなり性質が違うんです。学者によってはそんなものでも作れるんだという人もいますが、わざわざ効率が悪いことをやる人はいないだろうと思います。

――改めてですが、今、理事長を務められている原子力研究バックエンド推進センターについて、どういうことをしているか教えていただけますか。

菊池 日本の放射性廃棄物のまとめ方というのは、あまり良くない体制と思っています。例えば、低レベル廃棄物に分類される原子力発電所のドラム缶の形の廃棄物は青森県で処分しているのですが、同じようなものであっても、原子力発電所のものしかいかないんです。大学や東芝、日立など放射性廃棄物を出しているところが日本には100カ所くらいあるのですが、一元化されていないので、そこの低レベル廃棄物は行き場がないんですね。

 私たちの組織は歴史的にはいろんないきさつがあったのですが、現在ではそういう民間や研究所の廃棄物をまとめて処分する道を作ろうというまとめをやっています。そのため、国ではなく、民間のみなさんからの基金をもとにやっています。現在、数億円単位の予算でやっていますが、スタッフは常駐そのほかを入れて30〜40人ほどです。

 国にも働きかけて、法律ですべての放射性廃棄物について網をかけたのですが、主要国のように高レベル廃棄物も含めた放射性廃棄物を、一元化した組織の中で国が関与しながらやっていくというのは当然の姿ではないかと思います。現在の青森(六ヶ所再処理工場)にしても、民間の会社(日本原燃)が何百年も責任が持てるのかという基本的な問題があるので、国の組織が放射性廃棄物についての最後の責任を持ってやっていくという風に一本化したいということで、いろんな意見を申し上げています。

 また、個人的な見解ですが、福島第一原発の1〜4号機から放出されたセシウムの量はどのくらいだと思いますか。ほとんどがセシウムですが、全部固体にして集めたとすれば理論上30センチ角ほどになります。何が言いたいかというと、本来事故がなければ福島の発電所の廃棄物として処分されていたものが出たとも言えるわけなので、そういう科学的な手順を見ながら最終処分をすることを考えてほしいと思っています。

――すみません、正直にお話ししていただけないかと思います。お話を聞いていると、今まで出てきた放射性廃棄物が微々たるようだというイメージを受けるのですが、すでに何千トン出てきていると思います。そして、ガラス固化体※にするプロセスも、非常に長い時間がかかる本当に大きな問題だと思います。そして最終的な地下貯蔵という話ですが、世界を見てもどこにもそのような場所は確保されていません。ですから廃棄物の問題というのが深刻な問題ではないかと思います。それに対応できるような具体的な策を1つでも提案していただけますか。

※ガラス固化体……核燃料サイクルの最終工程である地層処分のための最終梱包・処理形態。高レベル廃棄物をガラスとともに融解し、ステンレス製のキャニスター(容器)へ注入・固化して作成する。

菊池 多分見解の違いだろうと思うのですが、我々、現実にやっている者としても量的なプレッシャーは感じています。それで、十分コントロールできる範囲であると考えています。今、ガラス固化体の話をされましたが、日本人が人生70年間、原子力発電を享受したとすると、発生するガラス固化体の量は1人当たりゴルフボール3個なんです。

 ですから、私がことさら少ないと言っているのではなくて、管理できる範囲内であるということです。押し寄せてきてつぶされるような状況ではないということです。ですから、例えば青森でも、すぐに地層処分ができなくても、貯蔵できないというレベルではまったくないということです。例えばガレキや生活ごみのように、日常出てきてプレッシャーを与えるというようなものではありません。ですから今、50年貯蔵とか言っているわけですが、それを例えば100年貯蔵にしたとしても十分管理できるということです。

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