Windows 8総責任者が辞任。マイクロソフトに今、何が起きているのか(4/4 ページ)

» 2012年11月15日 08時00分 公開
[本田雅一,Business Media 誠]
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マイクロソフトが失いかけているもの

 もちろん、業績が上がらないからクビになったのだ、という声があるのも確かだ。直近の業績が振るわなかったWindows部門の責任者であるシノフスキーは、評価点で5点(数字が少ないほど評価が高い。5点の場合、ボーナスは未支給となる)だったと噂されている。しかし、Windows 8発売直後に出たレビュー記事こそ辛辣なものも少なくなかったが、業績として評価できるほどの時間は経過しておらず、これが退任の理由とは想像しにくい。

 コンピューティングに関わるあらゆる要素をひとつの部署にまとめ、統合・調和を目指すシノフスキー的手法へのバルマー、そして社内の反発というのが、シノフスキー退任の深層部にある。シノフスキーはウィンドウズ部門に、必要なものをすべて吸収しようとした。しかし、ラーソン=グリーンは”協業”を重んじる組織運営を得意とすると、社内では評価されている。

 過去の開発においては、Office部門とWindows部門の間をつなぎ、ユーザーインターフェイスや各種機能の整合性を高めたり、Windows Phone部門との間をつなごうとした。現時点でWindows部門とWindows Phone部門の風通しが良いとは決して言えない状況だが、今後、”コラボレーションの人”として社内各部門を接続し、Windowsの商品価値を高めていくことが期待されているという。

 すなわち、社内コラボレーションが”できる人”と”できない人”といった視点から、シノフスキーが社内闘争に敗れたという見方だが、今回の人事が最終的にマイクロソフトにプラスになるのか、マイナスになるのかは予想しにくい。協業が進むことによる利点と、強いリーダーシップで技術を統合する利点。マイクロソフトは前者を採ったわけだが、今の時代を考えればマイクロソフトが本来求めなければならないのは、強いリーダーシップではないだろうか。

 10億台のWindows機で”安泰”、”無風”というイメージを持たれるマイクロソフトだが、実際には時代の節目で会社の向く方向を大胆に変えることで生き残ってきた企業だ。95年に発売されたWindows 95ではインターネットを過小評価していたが、発売直前に方針を大胆に転換。「これからはインターネット中心に製品を考えねば成らない」とゲイツ氏が全社員に話し、インターネット接続機能を猛烈な勢いで開発し始めた。

 2000年には”.NET"構想を発表。ネットワークサービスとソフトウェアが連動する中で、安全でリッチなユーザー体験を作り上げる必要があるとし、全製品を新しい考え方で再構築することを宣言。全製品の向かう方向を一気に転換。この”変わり身”の速さこそが、マイクロソフトの発展を支えてきた。

 では、スマートデバイスが台頭する今の時代に、マイクロソフトはどう対処しようとしているのだろう。過去の転換点とは異なる行動にマイクロソフトは出ようというのだろうか。

シノフスキーの後任は?

 シノフスキーの去った今、マイクロソフトの次期トップ候補として名前が挙がっているのは、ビル・ゲイツのスピーチライターとして活躍し、バルマーがもっとも目をかける幹部と言われている最高マーケティング責任者のクリス・カポセラである。

 エンターテイメント&デバイス部門プレジデントのロビー・バック、XboxやZune開発に携わったジェイ・アラード、チーフソフトウェアアーキテクトのレイ・オジー、それにボブ・マグリアとスティーブン・シノフスキー。マイクロソフトを支えてきたテクノロジー・ギークたちは、もうマイクロソフトにはいない。

 これまでマイクロソフトの発展を支えてきた、時代に合わせてのドラスティックな変化への追従。その旗を振る人間がいなくなったと感じるのは筆者だけだろうか。マイクロソフトは、一番の”強み”を失いかけているのかもしれない。

 本コラムは、Yahoo!ニュース 個人に掲載された本田雅一氏のコラム「Windows 8総責任者が辞任。マイクロソフトに今、何が起きているのか」を加筆修正したものです。本田氏の他のコラムは、「本田雅一のテック・ビューイング」バックナンバーから読むことができます。


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