社員のようにふるまう内定者、「内定者社員」というフシギな存在サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/3 ページ)

» 2012年11月14日 08時00分 公開
[サカタカツミ,Business Media 誠]

 もうひとつは「格差問題」です。これは、内定者バイトが「できた」人と「できなかった」人の間に「差」が生じてしまうこと。例えば、内定者としてバイトをしていれば、その会社の中の「ルール」のようなものが、自然に身に付きます。社内での振る舞いが分かってくるのですね。転職経験がある人なら「いつ昼ご飯を食べにいけば良いのかな」とか「この会社、交通費の清算はどういう仕組みなのだろう」とか、そういうちょっとしたことが気になった人も多いはず。ましてや、内定者は初めて社会に出るわけですから、戸惑いも大きいわけです。バイトをしていた内定者が、していなかった内定者をサポートすればいいのですが、中にはその差を利用して内定者どうしで差別してしまうものもいるのです。「先輩風を吹かせる」という言葉がピッタリかも知れませんね。組織に馴染めるかどうか不安な人にとって、同期がそんな態度だと、格差を感じて不安はいっそう増すのです。

内定者が社員のような振る舞いをするフシギ

 内定者が先輩風を吹かすなんて、ちょっと子供っぽくて面白いなぁと思った人もいるかもしれません。一方、こういう「内定者の組織への順応性」を上手に利用している企業の存在に気づいている人は、まだ意外と少ないのが現状です。その話をする前に、皆さんは『採用選考に関する企業の倫理憲章』(参照リンク)の存在をご存じでしょうか。日本経団連が定めたもので、詳細はリンク先を見ていただきたいのですが、要は「企業は採用活動を学生生活の妨げにならないようにするために、ある程度のルールを決めています」という内容です。

採用選考に関する企業の倫理憲章。「インターネット等を通じた不特定多数向けの情報発信以外の広報活動については、卒業・修了学年前年の12月1日以降に開始する。それより前は、大学が行う学内セミナー等への参加も自粛する。」とある

 これを良く読むと「あれ、おかしいな」と気づく人もいるでしょう。採用選考に関する企業の倫理憲章を読む限り、来年卒業する学生に対して、今の時点(11月初旬)で企業が接点を持つことは難しい。しかし実際には、企業の採用担当者が前に出て話をするという就活生向けイベントが、大学3年生の夏前から花盛りになっています。

 実はこれらの多くは、企業が主催しているわけではありません。主催者は別の人たちです。倫理憲章は法的拘束力のない、あくまで紳士協定のようなものなので、守る必要はありません。ですから、出し抜く人たちが現れる。「出し抜かれたくない、でも紳士協定は守っているように見せたい」という企業のジレンマが、イベントの主催者は別の人であることからも垣間見えます。そう、現実的には「あらゆる手」を使って学生と接点を持ち、母集団を形成しているのが実情なのです。

 最近は、その方法がさらに進化を遂げています。それが「内定者による会社説明会の主催」です。内定者が、自分の出身大学などで「就活セミナーを開催する」というスタイルでイベントを開催する。以前書いた「就活好きの就活生」が行なっていたそれ(参照記事)と形式的には似ているのですが、中身は進化しており、企業の採用担当者たちが深く関与しているケースが少なくありません。

 内定者が、内定先の採用担当者を招いてトークショーをするというイベントは典型例でしょう。採用担当者自身も「こういうトークショーをウチの内定者が開催します。私も参加します、気軽に遊びにきてください」とソーシャルメディアで告知するケースも少なくないですから、推して知るべし。そういう風に、内定者がいつの間には採用活動にも関与し、社員のような振る舞いをする理由の一端に「新卒採用の歪み」が見えてくるのです。

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