コラム
» 2012年11月12日 08時00分 UPDATE

藤田正美の時事日想:日本外交に戦略はあるか? (1/2)

中国で開かれている共産党第18回党大会。5年に1度の指導部の交代を決める重要な大会だ。この大会に向けて権力闘争が活発だった時期に、日本は尖閣諸島を国有化したが、それがもたらす影響について民主党政権に「読み」はあったのだろうか。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 今、中国では共産党第18回党大会が開かれている。5年に1度の指導部の交代を決める重要な大会であると同時に、江沢民前国家主席と胡錦濤国家主席のどちらがより強い影響力を残すのかという正念場でもある。

 この大会に向けて権力闘争が活発だった時期に、日本は尖閣諸島を国有化した。それも野田総理が胡錦濤主席に「立ち話」で国有化を通告し、強硬に反対された2日後のことだ。面目丸つぶれとなった胡錦濤主席は、反日暴動を容認せざるをえなかった。

 何度か書いているように中国が海洋進出を強めているのは、尖閣の国有化とは関係がない。中国の内在的な動きとしての海洋進出であって、そのプロセスに当然のことながら尖閣諸島も含まれているからである。その意味では遅かれ早かれ尖閣をめぐって日中は対立する運命にある。

 問題は、現在の民主党政権にそういう「読み」があったかということだ。尖閣をめぐって日中対立不可避であっても、今がその時期なのか、それとも習金平体制が落ち着いてからなのか、というシナリオがあるべきだったと思う。日本が実効支配しているのだから、日本から仕掛けることはない。相手が出てくるまでまっておもむろに拒否すれば国際世論にも訴えられると考えることもできる。

 石原東京都知事の買収構想にあわてふためいたばかりに、そういった余裕をすべてかなぐり捨てて国有化に踏み切ってしまった。結果、中国につけいる隙を与えたということもできるだろう。中国では「野田首相に乾杯」という声もあると聞いた。日本が国有化したおかげで、中国の公船が日本の接続水域や領海に入る言い分ができたというのだ。つまり領土問題は存在しないとしてきた日本政府は、その意図とは逆に、国有化によって領土問題が存在することを露呈してしまった。

 外交の巧拙は、その国の明暗を分ける。希代の外交家といえばフランスのリシュリュー枢機卿(1585〜1642)だとヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は書いている。領土の拡張、支配の強化を狙って戦火が絶えなかった欧州に、バランス・オブ・パワーという考え方をもたらした。要するに冷徹な読みと計算で、自国の安全保障を考えるというのである。

 欧州が長い平和を満喫したのは19世紀、バランス・オブ・パワーが非常にうまく機能したときだ。キッシンジャー博士は、『外交』という本の中で、この時代についてこう言及している。

 「バランス・オブ・パワーは武力を用いる機会を減らし、共通の価値観は武力を使おうという意思を減じた。正当と思われない国際秩序が生じても、遅かれ速かれ批判や修正の圧力を受けることとなった。ある種の国際秩序が正しいものであるかどうかが判断される場合、その判断の基準となるのは、外交のやり方だけでなく、それぞれの国内政治体制でもある。その意味で、各国の国内政治体制が共存できるものであることは平和を促進する」(日本経済新聞社『外交』上巻96ページ)

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