コラム
» 2012年11月09日 08時02分 UPDATE

杉山淳一の時事日想:あなたの街からバスが消える日 (1/3)

バスは鉄道と並んで、地域の重要な移動手段だ。特にバスは鉄道より低コストで柔軟に運用できるため、公共交通の最終防衛線ともいえる。しかし、そのバス事業も安泰ではないようだ。

[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 長野県の松本駅で途中下車した。松本は私が学生時代を過ごした街だ。23年ぶりに訪れた松本駅はすっかり様子が変わった。駅舎が新しくなり、洒落(しゃれ)たショッピングビルになっていた。駅前広場も広くなって、そこに新設されたバス乗り場から、小さな巡回バスが次々に出発していく。

 私はこの街に2時間ほど滞在するつもりだった。私が下宿していたのは松本市郊外の浅間温泉という町で、鶏の山賊焼きのうまい店がある。そこは松本駅からバスで20分ほどの距離。当時、松本から松本城付近、信州大学付近を経由して浅間温泉に行くバスは10分おきに出ていた。

 ところが時刻表を見てびっくり。すぐに乗れると思ったバスは、いまは1時間に1本しかない。運行本数が6分の1に減ってしまった。

yd_sugiyama1.jpg 様子が変わっていた松本駅。市政100周年事業として玄関口の駅周辺を整備したという

経営難で路線網を見直し

 次のバスは40分後。1000円くらいの定食を食べるために、タクシーで往復するほどでもないか。次の機会にしよう――。

 私は懐かしい店をあきらめた。新しい駅ビルのレストランで山賊焼き定食を注文し、母校の後輩という店員さんに聞くと、その路線バスが10分おきに走っていた時代を知らないという。改めて20年余りの歳月を感じた。

 調べてみると、減便は2008年に実施されていた。バス路線全体の見直しがあり、松本駅から放射状に運行されていた路線網は、市内中心部の循環路線と郊外行きに再編成されていた。浅間温泉方面はローカル支線という扱いになったようだ。松本駅から浅間温泉までは、私が生まれる前には路面電車も走っていた。私が学生のころは、その廃線跡をバスが走っていた。

 このバスを運行する松本電鉄は2007年に経営難となり、メインバンクの支援を仰ぎ、私的整理を実施している。2008年はその翌年だから、路線改変はリストラの一環だったのだろう。乗客の多い区間を充実させて、末端区間の運行回数を減らす。正しい経営判断だといえる。

 しかし浅間温泉の人々は不便だろう。観光団体は貸し切りバスで来るし、大きな旅館は送迎バスを持っている。しかし、バス便の来客に頼る家族経営の旅館も多いし、そのなかのいくつかは別棟をアパートに改装して学生や若い世帯に貸している。私がこの町を下宿先に選んだ理由もバスの便の良さだった。「バス終点の町」の影響は大きかったはずだ。

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