成熟期商品の生き残り方――ポスト・イットの場合それゆけ! カナモリさん(3/3 ページ)

» 2012年11月07日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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エモーショナルなブランド訴求を展開する

 これと並行し、ブランドイメージの強化にも余念がない。

 みなさんは「ポスト・イット」にどのようなブランドイメージを持たれているだろうか? 「メモを書いて、貼って、はがして、また貼って」という使用方法にピッタリなほど良い粘着度が製品の中核的便益であることは間違いない。その品質の高さは、100円ショップなどで販売されているノーブランドの付せん紙と比べれば明らかだ。住友スリーエムが実施したブランド調査でもそのファンクショナルな価値の高さには高い支持が寄せられたという。

 一方で、今後は「使ってみたくなる」「楽しい」などというエモーショナルな価値に対する支持を高めたいのだという。

 実は、前出の「手帳用製品ポータブルシリーズ」もその一環であり、単に女性向けにターゲットを拡大するのが狙いではなく、「楽しい」商品群を開発するというエモーショナル戦略の一部を担っているのである。

 エモーショナルなブランド訴求のために、7年ぶりにテレビCMも制作した。

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※上記CMのYouTubeでの掲出は2012年12月までの予定

 「ジブンをひらけ。」と題されたCMではさりげなく、「どこにでも貼れる」という機能も示されているが、それ以上に「前向きな自分に導く」というエモーショナルな訴求がなされていることが分かるだろう。

 自社商品が成熟期に差し掛かったとき、どのような対応を行うのかの判断は企業によって異なる。だが、今回の住友スリーエムにおけるポスト・イットのアンゾフ的なモレヌケのない商品展開の可能性を探る展開と、ファンクショナル+エモーショナルなブランド価値をさらに高める余地を探る訴求は、1つの方向性として参考になるだろう。

 大概のことはやり尽くしたと考えがちな成熟期であっても、微に入り細をうがつような展開によって、商品もブランドも成長余地を見つけることができる。ポスト・イット製品の取り組みは、そのことを改めて教えてくれているように思う。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。Facebookでもいろいろ発言しています。


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