手間と時間をかけたものが人の心を動かす――返報性の原理(1/2 ページ)

» 2012年10月24日 08時00分 公開
[松尾順,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:松尾順(まつお・じゅん)

早稲田大学商学部卒業、旅行会社の営業(添乗員兼)に始まり、リサーチ会社、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャー、システム開発会社などを経験。2001年、(有)シャープマインド設立。現在、「マインドリーディング」というコンセプトの元、マーケティングと心理学の融合に取り組んでいる。また、熊本大学大学院(修士課程)にて、「インストラクショナルデザイン」を研究中。


 お客さんの心をつかみたいなら、楽しよう、手を抜こうとしてはいけません。また、効率性を考えすぎてはいけません。可能な限り、手間と時間をかけたコミュニケーションが必要です。

 世界的なベストセラーである『説得力の武器』では、相手を説得するための効果的な「コミュニケーションテクニック」が実証研究に基づいて解説されています。

 同書では主要なテクニックとして「6つの原理」が示されていますが、最もパワフルな原理はやはり「返報性の原理」でしょう。

 これは、「受けた恩は返さずにはいられない」という心理を利用するもの。具体的には、こちらがまず相手にとって何らかの得になることを提供して、「恩義」を感じさせ、その後の説得を有利に展開しようとすることです。

 人間は社会的動物です。すなわち、集団で生活を営む動物であり、お互いに助け合うことで社会が円滑に回る。したがって、「恩義」を大切にすること、「借りはきちんと返したい」という欲求は、人間社会において、最も根底にある心理だと考えられます。

 だからこそ、「返報性の原理」は、極めて効果の高い説得テクニックになりえるわけで、仮に相手が自分に対してあまり好意を持っていなくても一定の効果があるほどです。

 さて、「返報性の原理」は、ビジネスにおいては、

  • 無料サンプルの提供
  • プレゼント(記念日など)
  • グリーティングカード(誕生日など)
  • 試食販売
  • 試着
  • 無料レンタル(一定期間後に販売)

 といった形で応用されています。

 どれも一定の効果があるのは確かです。しかし、より効果を高めたければ、「できるだけ手間と時間をかけること」です。

 しばしば、「心のこもった贈り物」という表現をしますが、これは、贈り主がいろいろと考えてくれたり、手間や時間をかけてくれたことが伝わる贈り物のことです。

 ですから、お誕生日のお祝いをプログラムで自動送信しているだけのメールや、印刷された文面だけのカードをもらっても、私たちはちっともうれしくない。恩義を感じることはない。なぜなら、人手がかかってないことが分かるから。心がこもっていないから。

 以前もご紹介しましたが、ある通販企業には、お礼状を1枚1枚手書きで書く人々が雇われています。手書きの礼状やお祝い状は、一定の時間や手間をかけたことがわかるのでうれしいのです。恩義を感じるのですね。

 そして、「また買ってあげなきゃ(悪いな)」という気持ちにさせるため、リピート率の向上につながっています。

 また、試供品の無料提供は文字通り、「試してもらう」ための方策としては有効ですが、大量生産された商品をばらまいているだけでは、やはり「ありがたみ」は少ない。しかし、ちょっとした手書きのメッセージを付け加えるだけで効果がまるで違ってきます。

 そういえば、経営危機を乗り越え、さあ再出発という時期のJALでは、客室乗務員の自筆のメッセージを搭乗客全員に渡すといった工夫をしていましたね。

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