森口尚史さんのウソで露呈した、マスコミの“弱点”とは?窪田順生の時事日想(1/3 ページ)

» 2012年10月23日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


 iPS細胞(人工多能性幹細胞)をめぐって、読売新聞が森口尚史さんにダマされたなんだという騒動がようやく落ち着いてきた。

 マスコミは森口さんのことを稀代の詐話師みたいに大騒ぎしたが、そんなたいそうなタマではなく、取材を生業(なりわい)にしていれば、わりとよく遭遇するタイプの人という印象だ。

 有名になりたいとか、カネを引っ張りたいとか、相手より優位に立ちたいだとか理由はさまざまだが、世の中には呼吸をするようにウソをつく人がいる。記者をやっていると、そういう人たちからわんさかと情報提供がある。

 ハーバード大とか東大だとかいう「肩書き」にダマされたという話だが、現実の取材現場では、そういう権威的な人たちの方が確信犯的にウソをつく。

 数年前、某有名大学病院のエラい先生が、画期的な研究に成功をしたというので話を聞きにいった。「専門記者じゃないとなかなか分からないだろうが……」なんて小難しい話をして得意気だったが、その後よくよく調べてみたら、実際にはあまり画期的ではなく、2年前に自身が学会発表したモノの焼き直し。おまけに、その研究には共同研究者がいて、特許をめぐって訴訟になっていた。

 そういう不都合な話は一切言わない。もちろん、記事にはしなかったが、どうやらそのセンセイは、スポンサー企業から研究費をせしめるため、記事で報じられるという「既成事実」が欲しかったらしい。

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