海外への外注増加で日本アニメは空洞化するか?アニメビジネスの今・アニメ空洞化論その1(1/4 ページ)

» 2012年10月23日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

アニメビジネスの今

今や老若男女を問わず、愛されるようになったアニメーション。「日本のアニメーションは世界にも受け入れられている」と言われることもあるが、ビジネスとして健全な成功を収められている作品は決して多くない。この連載では現在のアニメビジネスについてデータをもとに分析し、持続可能なあるべき姿を探っていく。


 製造業界などと同じく、アニメ−ション業界でも賃金の違いなどから海外へのアウトソーシングが進んでいるため、日本のアニメ産業が空洞化している、という話をよく聞く。しかし、それは果たしてどのくらい実態を表している話なのだろうか? 今回から数回に分けて、「アニメ空洞化論」について検証してみたい。

 アニメ空洞化論の内容にはいくつかあるが、大きく次の2つに収束されると思われる。

(1)動画や仕上げなどをアウトソーシングしている海外(アジア諸国、特に韓国と中国)に技術が移転することでそれらの国々のアニメ作品のクオリティが向上し日本が競争力を失う

(2)アニメ制作の要である原画職。その原画アニメーターになるため欠かせない訓練工程である動画が海外に発注されているため、国内でのトレーニング機会がなくなりアニメーターが育たなくなる

 (1)については、アジア諸国に技術が移転することで、それらの国々の中から日本のアニメに対する競争力を持ったライバル国が果たして本当に現れているのか。(2)については、国内で動画に従事する機会が少なくなったため、アニメーターが育たなくなっているというのは事実なのか。この2点に主軸を置いて検証してみたい。

 ただし、この2つを一度に語るとかなり長くなりそうなので、今日明日の記事で(1)、11月6日掲載予定の記事で(2)を解説していく。

 まずは、技術移転によって各国の自国製アニメが発展し、日本の位置を脅かしているのかについて、アジアにおけるアニメの実態を見ていこう。

 これから紹介するデータは、広告代理店のアサツーディ・ケイ(ADK)が2011〜2012年にタイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、中国、インドで行った「アジア7カ国生活総合調査」に基づいた「人気アニメ調査(特撮も含む)」である。

 ADKは『ドラえもん』を始め、『クレヨンしんちゃん』『ワンピース』『スマイルプリキュア』といった日本を代表するアニメの代理店で、作品によっては製作にも深く関わっている(『テニスの王子様』『黒子のバスケ』を製作するNASという子会社がある。また『サザエさん』はADK関連会社のエイケン制作)。

 この調査は各国で20〜59歳までの1000人を対象としたもので、0〜12歳の子どもがいる親にはその子どもにも質問している。そのため、海外での日本アニメの状況を知るにはちょうどいいだろう。

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