ヒット連発の映画プロデューサーは「石ころぼうし」の視点で世界を見る窪田順生の時事日想(3/4 ページ)

» 2012年10月16日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

「つくる」と「観てもらいたい」という思い

――本を読ませていただいて、主人公と悪魔のやりとりも面白くて、独特の語り口があるなと思いました。

川村:主人公には名前をつけていません。人格や風貌についても極力具体的な表現は避けています。一方で、主人公の目から見る人やモノについては、具体的でありディテールもかなり細かいところまでこだわって描いています。世界からモノが消えていく話なので、自分以外の世界が鮮やかに見えるべきだと思っていました。加えて、普遍的な親子関係がドラマの中心でもあるので、極力他人事ではなく、読み手自身の物語として読んでほしかったので、匿名性が強い主人公にしたところはあります。

――川村さんはプロデューサーとして作品と宣伝をセットで考えるとうかがいましたが、そのあたりはこの本にも生かされているんですか?

川村:僕は「つくる」ということと「観てもらいたい」という思いが同じぐらい強いので、観客に届くかということは常に意識します。だから、この本も2012年の日本人にとって、どういう意味があるのか? なぜ必要なのか? ということはすごく考えました。

 例えば、終わり間近の章は「世界から僕が消えたなら」というタイトルですが、東日本大震災で、津波が押し寄せてくる光景を見たり、余震におびえる日々を過ごしながら、「自分がいつ死んでもおかしくはない」という気持ちを日本中が共有したと思うんです。そこを超えた後と前で日本人はぜんぜん違う。

 だからこそ、「終わり」から考えることで、ポジティブな未来を見つめる物語を描きたかったのです。「石ころぼうし」ではないですが、時代のムードみたいなもので、まだ声があがってないものを声にするというのが僕の「つくり方」だと思っています。

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