いわゆるお正月映画で賑わう12月は夏休みと並ぶかき入れ時であるが、アニメに限って言えば、ここ数年『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』を除き大ヒットに恵まれなかった。
さて、その12月であるが第一弾となるのが12月1日公開の『劇場版イナズマイレブンGO VS. ダンボール戦機W』である。劇場版としてはまだ3作目に当たるが、前2作の興収がそれぞれ17億7000万円、12億円と安定しているので10億円の大台は超えられるのではないかと思う。劇場ブッキングは269館という規模であり、『ダンボール戦機』とのコラボ作品という話題性もあるので十分行けるものと思われる。
同じく12月1日に登場するのが、やなせたかしの絵本が原作となる『ハルのふえ』である。『アンパンマンが生まれた日』と『ロボくんことり』との3本立て興業となっているが、ブッキング現時点で全国31館。今夏の『それいけ!アンパンマン よみがえれ バナナ島』が165館でほぼ5億円の興収であったので館数に沿った結果となるのではないか。
12月15日には『ONE PIECE FILM Z ワンピース フィルム ゼット』が公開されるが、この作品に対する期待度は非常に高い。それは、次表の「劇場版ONE PIECE興行収入推移」を見ても分かるように、原作者が製作総指揮・ストーリーを担当した2009年『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』がシリーズの中でも突出した数字を上げており、今回もまた原作・総合プロデューサーを兼ねるという点に対する期待度から来るものだろう。
また、その期待に対する胸算用が大きいことも、映画館のブッキングが東映としては最大規模の298館(10月8日現在)という規模になっていることからもハッキリと見てとれる。今回の作品がストロングワールドを超えるか否かはジャンプ紙上でのキャンペーンや劇場入場者プレゼントに大きく左右されるものと思われるが、記録好きな筆者としては劇場版ONE PIECEの新記録を打ち立てるシーンを見てみたいと思う次第である。
12月22日には初の長編映画化である『映画かいけつゾロリ だ・だ・だ・だいぼうけん! 』が公開される。公開規模は57館だが親子連れで見るお正月映画としては打って付けではないか。
そして、2012年の最後を飾るのは12月28日公開の『青の祓魔師劇場版』である。年末に押し迫った時期の公開はおそらく『ONE PIECE FILM Z ワンピース フィルム ゼット』の影響を避けてのものであろうが、公開館数が182館というのは、秋冬シーズンでいうワンピース、イナズマイレブン、とエヴァに次ぐ数字である。東宝が配給という点から考えても10億円の大台は行くのではないか。
ここまで見てきたように今年の秋冬劇場アニメは非常に強力である。現時点ではまだ確定はしていないが、春シーズンの興行収入が90〜95億円、夏シーズンが105億円前後になるのではないかと思われるが、それに対して10〜12月のシーズンはおそらく150億円を突破するのではないか。
エヴァとワンピースの成績次第という感もあるが、『神秘の法』『映画 スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!』『劇場版イナズマイレブンGO vs ダンボール戦機W』『劇場版 青の祓魔師(エクソシスト)』といった10億円台を狙える作品が結構ある。それらの作品が堅調に推移し、エヴァとワンピースが期待以上の興収を上げることができれば150億〜200億円の中間程度まで行けるかもしれない。そうなれば、ジブリ作品がなかった年としては最高の興行収入記録になるだろう。
いずれにせよ活況をていす秋冬シーズンとなりそうだが、どうやらこの劇場アニメの勢いは2013年も続きそうな気配である。年明け1月早々に『劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影(ファントム・ルージュ)』、2月には『スタードライバー THE MOVIE』『劇場版とある魔術の禁書目録 エンデュミオンの奇蹟』などの注目作があり、3月には満を持して『ドラゴンボールZ』が登場。そして、夏には大本命の宮崎作品が公開される。また、同じ年に高畑作品もリリースされるとのことなので今年以上に話題の多い年となりそうである。
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
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