「東京駅復原」で浮き上がる、貧困な景観デザイン杉山淳一の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年10月05日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

邪魔なものが多すぎる

 東京駅の丸の内側は、開業当時は草原で、陸軍省の演習用地だったという。それを三菱グループ創業者・岩崎弥太郎の弟、岩崎弥之助に払い下げてもらった。しばらくは原っぱで、「三菱が原」と呼ばれていたそうだ。岩崎はここにビルを3つ建て、その後商工会議所を含めて4軒長屋と揶揄(やゆ)された。長屋といってもヴィクトリアン・ゴシックの立派な建物で、一丁倫敦(いっちょうロンドン)とも呼ばれた。

 現在も同じ位置に丸ビルと新丸ビルが建っている。東京駅に対面し、皇居へ続く行幸通りを挟んだ形だ。このふたつのビルは建て替えられたが、行幸通りから東京駅を見た場合、駅舎を隠さない位置だ。この空間の余裕をもたせたことは評価できる。その巨大建築さえ東京駅を隠さないというのに、丸の内駅舎の全容が見えない。中央口付近だけしか見えない。これがほんとうに残念だ。

 駅舎を視界から隠す邪魔者は、行幸通りの並木に茂る葉、環境事業だという散水設備のコンクリートの四角い施設、南口と北口の前にひとつずつ建っている換気塔である。並木はおそらく落葉樹で、冬には葉が落ち、視界を広げてくれるだろう。しかしコンクリートの散水設備と換気塔は無粋である。

駅舎に近づいて撮影した複数のカットをつないでみた。換気塔がいかに無粋か分かる

 ヒートアイランド対策だという散水設備は皇居側にも同様な設備があって、こちらは私の膝より低い。同じ機能なら、いや、それぞれ異なる機能で一対というなら、どうして前後を入れ替えてくれなかったのだろうか。行幸通りはこれでも都の景観重要道路だという。しかし都市の景観は道路だけきれいにすればいい、というものではなかろう。

 換気塔は東京都のオリンピック招致の絵が描かれている。首都高の地下区間用の都の施設かと思ったら、これはJR東日本の施設。地下にある横須賀線、総武快速線ホームの換気を行うための施設だ。必要な施設だと理解できるが、こんなに大きく、高くする必要があっただろうか。そもそも、この場所でよかったのか。旧駅舎だって日本を代表する中央駅にふさわしい姿だったのに。

道路に水を撒くための散水設備。こちらは東京駅側(左)、皇居側の散水設備。こちらは低い(右)

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