コラム
» 2012年09月28日 08時01分 UPDATE

杉山淳一の時事日想:そして「交通弱者」は救われたのか (1/4)

ローカル線問題になれば「交通弱者」という言葉が出てくる。この言葉のお陰で「交通政策は弱者救済のため」と勘違いされ、その結果、「自分には関係ない」と無関心になる人が増える。交通政策はあらゆる人のためにあるというのに。

[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 留萌本線(るもいほんせん)の恵比島駅を訪れた。無人駅で、付近には民家が数軒しかない。しかし小ぶりながら立派な木造駅舎がある。実はこれ、13年前にNHKで放送された朝のドラマ『すずらん』のセットだ。看板には「明日萌駅」とある。放送当時や放送後は観光客で賑わったようだが、今日の訪問者は私ひとり。朝だからかもしれない。

 8時45分発の上り列車を待っていたら、おばあさんが現れた。2つ隣の駅、石狩沼田まで買い物に行くそうだ。「バスもあるけど、早い時間だもんね。それで行っても店が開いとらん」という。おそらくそのバスは通勤通学用なのだろう。このおばあさんが8時45分の列車に乗ると、2つ先の石狩沼田に8時53分に着く。お店の9時の開店にちょうどよく、帰りは石狩沼田を11時23分発の列車に乗って、恵比島に11時31分に着く。ちょうどお昼だ。1日7往復しかない列車を上手に使いこなしている。

 このおばあさんのように、自宅のそばに用を足す施設がなく、クルマを持たない、運転免許がない人を、交通政策の分野では「交通弱者」と呼ぶ。この言葉は公共交通を考える上で重要だが、この言葉にとらわれると思考停止に陥るおそれがある。

yd_sugiyama1.jpg 留萌本線の恵比島駅 駅舎ほかの建物は撮影用のセット。本物の駅舎は右端にある貨車を改造した待合室
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