尖閣諸島問題の行方は? 日本外交の構想力が試される藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年09月24日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 1945年に戦争が終わって以来、日本がこれほど戦争に近づいたことはなかった、と言えるのかもしれない。尖閣諸島の国有化を巡って、中国では人民解放軍が戦いに言及したり、一部報道によればある中国の新聞は核爆弾を投下せよと主張したという。

 もともと日本政府の公式姿勢は「中国との領土問題は存在しない」ということだ。しかし東京都が島を買収して、船だまりや無線局を設置すると言い出してからおかしくなった。もし東京都が島に恒久的な設備をするとなれば、中国の反発は必至。そのため野田政権は、国有化して「何もしない」という選択をした。しかし中国側がそれで納得するはずはない。もともと日中間で「棚上げ」されていた島を国有化するということは、暗黙の了解を破棄するものということになる。

 中国側にも事情はあった。今年は10年に一度の指導部の交代。しかも重慶市の薄事件が示すような権力争いがある。習近平次期国家主席も9月上旬には一時所在がつかめなくなり、一部では林彪事件の再来かと騒がれたものである。その上、今年に入ってから中国経済の減速が明らかになっている。2000万人と言われる新たに労働市場に参入する若者に職を提供するためには、8%成長が必須とされるが、欧州の減速の影響でそれを下回る可能性が大きい。

 経済の減速が社会に影を落としているだけではない。権力者の腐敗、当局による強引な土地収用、そして失業で人々の間に不満が鬱積しているのである。所得格差も大きい。平等を根本原理とする共産党の支配にもかかわらず、最上位10%と最下位10%の格差は20倍を超え、米国よりも大きかったとする調査もあった。柳条湖事件記念日を過ぎたところで政府がデモを一気に抑え込んだのも、不満が政府に向かないようにするぎりぎりのタイミングだったのかもしれない。

 ただこの尖閣問題で、新体制下の中国がこのまま引き下がるはずはないと思う。最も大きな問題は、南シナ海である。中国は、重要資源(石油や鉱物資源、食糧)の輸入国となり、海外の権益をどん欲に漁っている。とりわけエネルギーにおいては、中近東はもとより、アフリカや中央アジアとの関係も深めている。

 もともと中国は大陸国家であり、しかもエネルギーは自給していた国だ。それが海を通じて輸入することになってから、中国は一気に海洋国家へと変身を図ってきた。南シナ海を「核心的利益」と呼び、南沙諸島や精査諸島で領有権紛争を起こしたりするようになったのも、中国の置かれた状況が変わってきたからだ。もちろん人民解放軍も歩調を合わせて、海軍の転換(沿岸警備から遠洋艦隊へ)を図ってきた。その1つの象徴が、空母機動部隊の創設だ(現在、訓練用1隻が就航し、2隻を建造中)。そして中国人民解放軍首脳が言うように、中国の核心的利益は南シナ海だけでなく、中近東やアフリカへのシーレーン防衛へとつながる。

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