「弱者保護」がさらなる弱者を生む、という構図「弱者」はなぜ救われないのか(2)(3/3 ページ)

» 2012年09月19日 08時00分 公開
[増原義剛,Business Media 誠]
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「弱者保護」がさらなる弱者を生んでいく

 2006年3月末に1万4236社あった貸金業者数は、2012年3月末には2350社まで、法改正を受けてわずか6年で6分の1に激減している。(貸金業者数が最大だったのは1986年の4万7504社)。仕事があるにもかかわらず、融資を受けられないがために仕事を請けられないというケースが生まれている。「弱者保護」がさらなる弱者を生んでいく一例である。

 これは、派遣切りに代表される弱者を救済しようという旗印のもとで提出された「改正労働者派遣法」(派遣業者への規制を強化する法案)や、「最低賃金法」(最低賃金の上昇は企業経営の悪化を招き、廃業や解雇、雇い止め等労働環境の悪化をもたらしかねない)、「借地借家法」(借り手の権利が強過ぎることで貸し手の家賃収入や土地再利用に過度な不利益が生じかねない)といった、数々の規制をめぐる議論とまったく同じ構図だ。

 また、海外の事例ではあるが、米国で採用されている、黒人や有色人に向けた大学など教育機関への進学優遇措置や連邦機関や自治体などへの雇用優遇措置「アファーマティブ・アクション」や、マレーシアの「ブミプトラ政策」も似たような弱者救済策であると同時に、その救済策がさらなる弱者を生んでいるという弊害が指摘されていれる。

 「ブミプトラ政策」は、先住民で国民の65%を占めるマレー人がイギリス植民地時代にイギリス人や華僑から搾取され不利な立場に追い込まれていたことを踏まえ、独立後、経済的に優位な立場にあった華僑に対するマレー人の立場を回復するためにマハティール政権下で推進された一連のマレー人優遇政策である。

 具体的には、国立大学への入学や公務員などの雇用面でマレー人が優先されている他、税率軽減などのビジネスにおける優遇措置も行われている。結果としてマレー人の優位性は回復されたものの、一方でマハティール前首相自身、その著書で「マレー人には勤勉さが足りない」と述べており、優遇政策には懐疑的な面があることも示唆している。

 実際、「ブミプトラ政策」の導入によって国立大学の国際的レベルが下がっているといった指摘がある他、実はマレー系民族間でも貧富の格差が大きくなっており、優遇措置の恩恵を被っているのはマレー系実業家といった富裕層が中心となってしまっていて、本来の弱者優遇の目的から現実が乖離してきているという見方もある。

 過大な優遇政策が国民から「独立心」と「勤勉さ」をそいでいる可能性を暗示しているのではないか。

つづく

著者プロフィール:

増原義剛(ますはら・よしたけ)

1969年東大法学部卒業 大蔵省(現財務省)に入省。東海財務局長を経て退官。2000年衆議院議員に初当選(2009年まで3回当選)。以後、自由民主党においては税制調査会幹事、財務金融部会長代理、金融調査会小委員長等、政府においては総務大臣政務官、内閣府副大臣の要職を務める。2006年には、自民党政務調査会・金融調査会「貸金業制度等に関する小委員会」の委員長として、改正貸金業法の立法に携わった。現在は広島経済大学教授。


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