「アニメは見ない」という人までファンに変えた、『TIGER & BUNNY』の仕掛け窪田順生の時事日想(3/4 ページ)

» 2012年09月18日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

サラリーマンが見ても共感

――『TIGER & BUNNY』には多くのファンがいますが、プロデューサーとして「顧客」というものをどうとらえて作品づくりに生かしていますか?

尾崎:自分の中ではすごく具体的にイメージしますね。『TIGER & BUNNY』は視聴者層で言うと、M1(20〜34歳の男性)、F1(20〜34の女性)、そしてM2(35〜49歳の男性)、F2層(35〜49歳の女性)が中心です。でも、マーケティングを考えるに際してはもっと細かく意識をしています。例えば「大学生までアニメは見ていたけど、今は海外ドラマを見ている35歳のサラリーマン」とか「アニメはほとんど見たことがなく雑誌でマンガを読むぐらい。でも、友だちがアニメ好きの30歳のOL」とか。

 こういう人たちに届けようと思うと、企画やプロモーションもより具体的になります。頭のなかに、隣人だったり架空の人だったり老若男女さまざまな人々を数十人単位でイメージして、彼らを常に意識するようにしています。

――「アニメファン」を満足させながら、「これまでアニメを見なかった人」にも見てもらうため、どのようなことに気を配りましたか?

尾崎:相反する要素を両立させるようなものですから、匙(さじ)加減が難しかったですね。ただ、必要最低限の条件を満たせば可能性はあるとも思っていました。それは「普遍性」です。物語やキャラクターに感情移入できるか。国や人種を超えられるか。時代を超えられるか、すなわち10年後でも面白いと思えるか。あくまでマス(大衆)に訴求するものを狙っていたので、このような「普遍性」を強く意識していました。

――確かにスポンサーがいて、人気がないとリストラされるという新たなヒーロー像は、アニメ好きじゃないサラリーマンが見ても共感できますよね。

尾崎:キャラクターが哀しんでいたり怒ったりしている状態を、視聴者として納得できるのか。「感情線」がちゃんとつながっているか。これをクリアしていれば、ひとつのハードルはクリアできていると言えます。逆に、この部分すらクリアできてないとかなり厳しい。予定調和的に「ここでこのヒーローにはこのキメセリフを言わせないといけない」とかやってしまうと、たぶんバレてしまうんですよ。ですから、『TIGER & BUNNY』では企画段階や脚本段階でキャラクターやプロットの作り込みは相当時間をかけてやっています。

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