就活生の好きな「なんとか力」と素人面接官の関係サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/2 ページ)

» 2012年09月17日 08時00分 公開
[サカタカツミ,Business Media 誠]
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面接官は、本当は素人

 この「なんとか力」という言葉。インターネットで「就活 身に付いた力」と検索してみると分かるのですが、積極力以外にも実にたくさんの言葉が出てきます。コミュニケーション力や表現力などの耳慣れた言葉だけでなく、聞いたこともないような造語にあふれているのです。就活生たちは、これらの言葉を自分たちの頑張ったことや挫折したことなど、ごく一般的に面接で問われそうな話をまとめる時に、オチとして適当にひねり出すようにしてネーミングしているのです。そして、それがよどみなく話せるように練習していますから「そんなことは聞いていないよ」という場面でも、つい口をついて出てしまう。

 ただ、現場の採用担当者たちは、この「なんとか力」に違和感を持ちません。なぜなら、その言葉が添えられていると話を理解するのに、とても便利だからです。就活生たちは話し慣れていないので、いくら整理をして練り込んだストーリーを用意していたとしても、その話を聞いて理解するのには骨が折れる。「伝えたいことがよく分からない」という状態になってしまうのです。最後に「なんとか力」という言葉でまとめてくれると、就活生が話す頑張った経験や辛かったエピソードを通して伝えたかったことが、面接官はスムーズに理解できるようになる。

 ここまで書いてしまうと「変な話! 人の話を聞くことで、その人が身に付いた力を類推するのが面接官の仕事だろ!」と怒る人が出てきそうですよね。私もそう思います。

 しかし、残念なことに面接を担当する企業側の人間は、そのほとんどが素人です。そう、面接をするための専門的な訓練を受けている人はごくわずかで、ほとんどは基本的な応酬のやり方と、聞いてはいけないことのレクチャー程度しか受けていません。話の文脈から何かを読み取るすべは、社会人として持っておくべきですが、それも日常の仕事の中で身に付いたものに過ぎず、面接という場面において活用するだけの専門性はないのが実情なのです。

型にハマった就活生を作り出している犯人は?

 専門的に訓練を受けた経験がない人が面接をするわけですから、話がフォーマット化されていると、その巧拙を判断しやすくなります。就活生の誰もが似たような構成で話をしてくれれば、ジャッジは楽。また、最後の「社会に出るために必要な力を身につけているかどうか」の部分は、話をしている内容からでは上手く理解ができなかったとしても「本人が身に付いたと思っているなんとか力」と「話を聞いて感じるもっともらしさ、もしくは違和感」で、判断することができるのです。

 新卒採用の現場では、できる限り数多くの就活生と会い、話を聞くことを目標にしています。たくさんの人と会わなければ、優秀な人とも巡り会えないと考えているからです。そのためにはある程度、効率を優先する必要がある。言い方は悪いのですが、型にハマった状態で横並びになっているほうが、優劣を見極めるのも楽になります。

 また、経済産業省が提唱する「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を表す概念として「社会人基礎力」が提唱されていることも(参照リンク)、ヘンテコな「なんとか力」を、就活生が話すオチとして利用することへ拍車をかけています。それを基準に面接をしているという企業も少なくなく、面接では対応するプレゼンテーションをするように指導される就活生も多いのです。

 さらに、この話のタチの悪いところは「そういう状態になっている」問題に、新卒採用の現場にいる人たちのほとんどが気づいていない点にあります。事実、冒頭の会話のときに、編集長の吉岡さんに「面接のとき、就活生はなんとか力ってオチを使っていませんでしたか?」と聞くと「あぁ、そういえば!」と反応していました。採用の現場では、型にハマっていることが普通になってしまっているのです。

採用担当者のコミュニケーション能力が問われている

 辛口な話になってしまうのですが、採用担当者は就活生に対して「彼らはコミュニケーション能力がない」とよくぼやいています。しかし実は、面接を担当している当の本人たちにもコミュニケーション能力が足りない人が多い。

 スポーツ番組のヒーローインタビューを見ていると、質問をする人の能力が足りない場合、相手に続きを委ねてしまうシーンがよくありますよね。テレビで見ていて「彼はなにが聞きたいのか分からないねー」と気付く人もいれば、アスリートたちの話を「なにを話したいのか、意味が通じないね」と思ってしまう人もいる。後者の人は面接官としては不向きなのですが、そういう人がゴロゴロ登場し、就活生たちを戸惑わせているのが実情なのです。

 話が上手い就活生を採用したいというのなら、採用担当者たちのコミュニケーション能力が低くても大丈夫、むしろ好都合です。しかし、就活生たちの持っている能力を少ない情報から引き出し、自社が求めている人材なのかどうかを判断するためには、素人の付け焼き刃程度の面接(意地悪な言い方ですが)というアセスメント方法では、限界に来ているのかもしれません。

 自分たちのコミュニケーション能力が改めて問われていることを、採用担当者たちは自覚すべきタイミングに来ているのではないか? と、ひずんでしまった新卒採用の周辺に身を置くものの一人として、ここでつぶやいてみるのです。

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