『おもかげ復元師』の著者である笹原氏は、映画「おくりびと」で広く知られるようになった納棺師であると同時に、私の幼なじみを穏やかな顔に戻してくれた復元師の一人だ。本書は、東日本大震災による大津波被害を受けた膨大な数のご遺体と向き合った同氏の記録だ。
詳細は本書を読んでいただきたいが、同氏はボランティアで300人以上の犠牲者を復元した人物だ。
昨年来の被災地取材を通じ、遺体安置所を何カ所も回り、変わり果てた姿になった家族を迎えに行った人たちの話をつぶさに聞いた。私が聞いたご遺体の詳細な記述は避けるが、神経の図太い私が2、3日の食事を摂れなくなるようなすさまじい内容ばかりだった。
笹原氏はこうした状況の中で「復元」の技術を施し続けたのだ。同書の「はじめに」から同氏の仕事上のポリシーに触れているので引用する。
残された人が死を受け容れる。そのためにも、わたしがこだわってきたのは「復元」でした。職業名を「復元納棺師」と名乗ることもあります。故人がどんな状態にあったとしても、生前と同じ表情、できるだけ微笑みをたたえたお顔にする。生前と異なるところ、たとえば硬直を解き、顔色や顔つやを変え、においが出ないようにする。
私の幼なじみは笹原氏に復元してもらったわけではない。だが、このような強い思いを抱いたプロの一人に復元してもらったからこそ、故人の家族や私は死を受け容れることができたのだ。同書の巻頭を読んだ直後、そう思うことができた。
まして、笹原氏が活動を続けていた時期は、震災発生直後だ。
残された人々の心は掻き乱され、混乱の極みにあったはず。そうした中での同氏がどう活動を続けたのか。突然訪れた災禍と多くの人の死に、プロである同氏が立ちすくむ場面もつづられている。
こうした状況を多くのメディアが報じることはなかった。「死」に関する自主規制がひかれ、現場を踏むことなく東京から指示を飛ばすだけの管理職が大多数だったため、震災報道から「死」という現実が浮かび上がってこなかったのだ。それだけに、同書が持つ力は大きい。
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