コラム
» 2012年09月13日 08時00分 UPDATE

相場英雄の時事日想:遺体に笑顔を取り戻す……『おもかげ復元師』が伝える被災地の現場 (1/3)

遺体に生前と同じようなたたずまいを取り戻させることで、残された人が死を受け入れやすくする復元師。東日本大震災では多くの人々の心を救ったという。

[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


ah_aiba1.jpg 『おもかげ復元師』

 今年3月の当欄で『遺体』(石井光太著・新潮社)というノンフィクションを紹介した。岩手県釜石市の遺体安置所とそこに集う人々を詳細につづった作品だ。

 今回は『おもかげ復元師』(笹原留似子著・ポプラ社)、『おもかげ復元師の震災絵日記』(同)を取り上げる。多くの読者に手に取ってもらいたい理由は、本書が『遺体』と同様に、東日本大震災で大手メディアがほとんど触れることがなかった被災地での「死」と真正面から向き合った作品だからだ。


復元師の実力

 『おもかげ復元師』に触れる前、私事をつづることをお許しいただきたい。

 今年1月、私は故郷の幼なじみを亡くした。小さな自動車販売・修理工場を営む友人は、咽頭がんが脳に転移し、あっという間に逝った。享年47歳。

 病院で故人と対面した私の父親から、苦しんだ末に亡くなったとの連絡があった。翌朝、私は郷里の新潟に向かった。道中、生前の幼なじみの穏やかな笑顔が何度も浮かぶ。バス釣り名人で、クルマの運転がとてつもなくうまかった。だが、苦しんで逝ったと聞かされていたため、正直なところ故人と対面するのが怖かった。

 幼なじみの実家に着くと、当の故人は不在だった。通夜・葬儀の日程が後ずれすることが決まったため、復元師のもとに向かい、処置を施してもらっていたのだ。

 2時間ほど待つと故人が帰宅した。

 畳みの部屋に安置された幼なじみの顔を見た瞬間、私は絶句した。なぜなら、彼が昼寝をしているとしか思えなかったからだ。肩を揺すれば、目を開けそうなほどだった。

 苦しみながら逝ったと聞かされていただけに、私は勝手に変な覚悟を決めていたのだ。帰宅した幼なじみを家族や親戚、それに私が取り囲むと、皆が一斉に笑みを浮かべた。皆が知る故人の表情が戻っていたからだ。

 その後、幼なじみの両親が堰を切ったように涙を流し、嗚咽を漏らした。「きれいな顔に戻してもらってありがたい」。彼の父親は何度もそう言った。

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