どんな流れで進めればいいの? ビジネスノベルの書き方とはビジネスノベル新世紀(3/5 ページ)

» 2012年09月07日 08時00分 公開
[渡辺聡,Business Media 誠]

(2)テーマにフィットする場面や人物配置、キャラクター設計を考える

 次にどういう場面で何を伝えたいかを決めます。いろいろ作れそうですが、寿退社の記事内容を紹介するストーリーを基本として、少しひねりを加えて仕上げることを目指してみましょう。

 テーマやメッセージを伝える際、読者への伝達役を担うのが主人公です。どのようなキャラクター設計でどのようなストーリーや人間関係の中に放り込むと読者が面白みを感じ、共感・納得してもらえるかを考えていくことになります。

 誠 ビジネスショートショート大賞のように字数の制約があると、あまり込み入った人物描写はできません。純文学的な小説技法で人物の深みを表現するには無理があります。それならば、キャッチーなキャラクター造形をコンパクトに提示することで読者を作品世界に引っ張っるのはアプローチ方法としてアリでしょう。

 「ライトノベルとはキャラクター小説である」と定義する人もいるように、ライトノベル系のジャンルでは物語の筋立てよりも面白いキャラクターを思いつけるかが勝負どころになる側面があります。プロの間でも「あの人のキャラクター創造力はすごい、真似できない」と作品作りの重要ポイントとして、Twitterなどで意見交換する様子がしばしばみられます。

 また、ターゲットとなる読者がはっきりしている場合、想定読者が入りやすいキャラクター設計をするのは常套手段です。子供向け漫画雑誌である『コロコロコミック』に出てくる主人公は小学生ばかりですし、ヤング○○といったマンガ雑誌に出てくる大多数のキャラクターは大人です。

 今回は仮に20代をターゲットとしてみましょう。また、連載第3回の作品紹介でも取り上げたように、最近の作品は女性を主人公にするケースが増えています。これは男女問わず受け入れやすいという戦略意図が基本にはありますが、もっと進んで定番の作法と化している面もあります。今回はこの作法を素直に採用して、女性主人公にしてみましょう。

 結婚と仕事というテーマは、女性の茶飲み話にもよく出てきそうですし、少女マンガや女性誌あたりの記事でも使えそうな定番素材です。恋愛もので仕事感の違いを浮き彫りにするハラハラするシーンに援用することもできるでしょう。ショートショートでは、オフィスものの4コママンガの雰囲気も参考になりそうです。

 寿退社の記事からはいくつかのバリエーションが考えられます。記事タイトルに退社という言葉が入っているので、会社に人が出入りする場面、誰かが辞めてしまう話、あるいは辞めようか考えている人が近い人に相談するといったものがストレートに浮かびます。飲み屋や外でランチしながら「実は」と切り出すところから書き出して、コンパクトにまとめるだけでも3000字くらいになりそうです。

 今回はもう少しアイデアを加えて、人事部の人に出てきてもらいましょう。会社や組織についての知識やうんちくを混ぜ込むのも自然にできそうな気がします。となると、人事部のどういう人が出るとこの素材を上手く扱えるかという観点から、人物配置を決めればいいことになります。

 寿退社の記事は、働き方についての考え方が変わってきているというテーマです。となると、会社側は採用や退職対応だけでなく、社内のリソース配分や育成システムなども変えていかないとならなくなる可能性があります。最近よく取り上げられるワークスタイルバランス問題の1つです。ほかにも女性上司の問題や育児休暇、子育て期間とどう向き合っていくかといった課題も延長線上に置けるとなると、子育て期間の人の動きを踏まえた新しい人事制度を打ち出すことも考えられます。

 こういった広がりが寿退社の記事の背景に読み取れるので、「会社として、その動きにどう対応していけばいいか」という問いかけを小説のテーマにしましょう。しっかり組み上げていくとショートショートを超えて、中編クラスまで広げられそうです。とはいえ、あまり話を広げ過ぎるとややこしくなるのと、3000字くらいでコンパクトにまとめるのが本記事の趣旨なので、今回は話を広げるのは触り程度にします。

 キャラクターですが、やたらと話を広げないにしても、人事全体のことを考えられる人が必要そうです。若手エース格の人や、ストレートに部課長クラスの人に解説役をしてもらう、あるいは社外の人事コンサルタントを登場させるというのもビジネスノベルでは常套手段ですが、ここは社内で少し話しているくらいのシンプルな場面にしたいので課長を出しましょう。

 課長に一人語りさせても小説にならなくはないのですが、誰かいた方がやはり分かりやすくなります。ビジネスノベルでは、読者と一緒に学んでいく立場の人を主人公格としてすえることがよくあります。主人公に感情移入しつつ、ともに成長していくという効果を期待しての作り方です。この作法に従う形で、若手社員を出しましょう。同様に、女性主人公が定番ということで、若手女性社員を主人公にします。

 どのくらいの若手にするかですが、若手中の若手、大学を卒業して間もない新入社員にしてみます。会社内で素朴な疑問を投げかけても許される存在ですし、課長から「それはだな」とOJTをする場面に持っていきやすくなります。主人公を女性にしたので、課長はバランスを取って男性にしましょう。登場人物を3人以上にしてもいいですが、シンプルな形を目指す趣旨から2人だけにします。

 主人公はどういう動きをしてくれると作品的にまとめやすいでしょうか。あるいは読んでいて楽しいでしょうか。アプローチは多数思いつきますが、「元気よく動く女の子に作品を引っ張ってもらう」という定番パターンを採用しましょう。

 人間関係については、長編ものだと最初は仲が悪かったものの話が進むうちに信頼関係が生まれる、というのはよくあるパターンです。ただ、ショートショートでそこまで作りこむ必要はないでしょう。冒頭で触れたように、描くのはあくまで一場面です。複数人以上いる場面や伏線が必要なものは避けることにします。マメに部下の面倒を見ている上司と元気良く仕事する若手1年目期待の星(だけど少しおっちょこちょい)というくらいにしましょう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.