大田区が「京急蒲田問題」をひっこめた本当の理由杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)

» 2012年09月07日 00時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

「蒲蒲線」のために事態を収める必要があった

 「蒲蒲線」は、JRと東急電鉄が接続する蒲田駅と、そこから少し離れた京急蒲田駅を結び、さらに京急空港線に接続させる鉄道路線の構想だ。この路線は2000年に当時の運輸省に設置された運輸政策審議会がまとめた「答申第18号」にも盛り込まれている。

蒲蒲線構想(出典:大田区)

 蒲蒲線は当初、蒲田付近を活性化させる案として離れたふたつの駅を結ぶ地下鉄を作ろうという案だった。しかしそれだけでは費用対効果が見合わない。ところが、羽田空港が拡張し、京急電鉄が空港地下に乗り入れるようになると、蒲蒲線には空港アクセス路線としての役割が見えてきた。

 さらに、東急目黒線と京急電鉄を直通させれば、東横線と東京メトロ副都心線を経由して、そこに乗り入れる西武鉄道や東武鉄道からも羽田空港へアクセスできる。蒲蒲線は大田区のプロジェクトだけではなく、東京の、日本の空の玄関に関するプロジェクトに「昇格」した。

 「答申第18号」では、東急目蒲線(当時)を京急蒲田経由で大鳥居駅に接続する計画だった。しかし、東急と京急は線路の規格が異なるので、直通運転は空港線側の改良工事が必要になる。京急電鉄にとっては、品川経由の本線の客が減る上に面倒な工事を押し付けられる形だ。そんな話し合いのテーブルには付きたくない。

 そこで大田区は計画を変更し、東急電鉄ではなく京急電鉄の規格で蒲蒲線を建設し、東急蒲田駅の地下に、島式ホーム※1本を設置。片側を東急電鉄、片側を京急電鉄が使う案を出した。直通はしないが、これなら同じホームで乗り換え可能。蒲蒲線の利益は京急電鉄に多く配分されるだろう。

※島式ホーム:2本の線路にはさまれてホームがある形。ホーム両側に上下線を発着させるのが一般的。逆に線路をホームで挟む形のものを相対式ホームという。

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