大田区が「京急蒲田問題」をひっこめた本当の理由杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)

» 2012年09月07日 00時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

大田区は京急電鉄批判のタイミングを誤った

 ところが、この事態に対して大田区は京急電鉄に対して何もアクションを起こさなかったようだ。本来、京急電鉄のダイヤ改正についてモノ申す時期はそこだったはずだ。前回も指摘したように、渋滞の増加は緊急車両の足かせになり、区民の安全を脅かすからだ。

 また、1999年の改正では、本線の日中の特急を快特に格上げしたため、同じ大田区内にある平和島駅が不便になった。この時も大田区は何もしていない。次のダイヤ改正についても、日中のエアポート急行が快特になってしまうため、急行停車駅の平和島駅のほか、普通列車から急行に乗り継いでいた人々の速達性(目的地までの所要時間の短さ)は低下する。ここにも大田区は目をつぶって「蒲田停車列車が増えるから良かった」としている。

 急行と特急が停車する平和島駅は、大田区の大森地域の中心にある。大田区は大森区と蒲田区が合併した区であり、かつては区役所も大森寄りにあった。古い話とはいえ、地域感情として、「大森VS. 蒲田」の遺恨がないわけではない。大田区の他の地域が不便になった時に大田区議会は何もせず、京急蒲田駅を通過されたらメンツが潰れて猛抗議である。

 大田区が批判した2010年の京急蒲田通過ダイヤについて言えば、京急蒲田駅を通過する列車が、蒲田も停車する本線の快特に続行する形になっている。だから京急蒲田駅が取り立てて不便になったわけではなかった。しかも通過は早朝と日中時間帯のみ。下り20本、上り18本だけだ。京急電鉄はこの区間に上下合わせて750本以上の列車を運行するので、通過列車比率は5%程度。そんな少ない列車に固執するなんて、大田区イコール蒲田ではないぞ、と、大田区の大半の人々は感じただろう。ちなみに大田区は23区で最も広く、蒲田はごく一部の地域にすぎない。

現在の京急電鉄品川駅下り時刻表。京急蒲田通過のエアポート快特(緑地白文字)はほんのわずかで、京急蒲田停車の快特の直後を走る(出典:京急電鉄サイト)

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