グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。
※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2012年8月31日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。
「大人向けの箱入りアイスを作る。それが最初の挑戦だったのです」。森永乳業の「PARM(パルム)」シリーズ、ブランド担当者は当時を振り返りながら、シリーズ開発の経緯を説明してくれた。
パルムが登場した2005年当時、“大人”が主なターゲットとなるプレミアムアイス市場は約9割という不動のシェアを「ハーゲンダッツ」製品に占められていた。ただ、パッケージの形態別で検討すると、マルチパック、つまり箱入りアイスは子ども向け、あるいは親子向け商品が過半で、そこにホワイトスペースが存在した。
では、「大人向け」というポジショニングをどのように実現したのか。それは、製品(Product)と価格(Price)のバランスにおいて緻密に設計された。次の図を参照しながら読んでほしい。
当時の箱入りアイスは店頭価格300円が相場。森永乳業では、そこを50円上げて350円(当時)というターゲットプライスを設定した。それによって、バリュープロポジション(そのブランドや製品がとり得るポジションニングの前提となる相対的な提供価値の分類)を明確にする「高価値戦略」狙いである。
「価格のわりに、価値は高い」とお客に感じさせるため、製品開発は徹底したこだわりとともに行われた。パルムは「なめらかな口どけのチョコレートとリッチなミルク感」を特徴とした商品だ。それを実現するために、「原材料はプレミアムアイスクリームと同様のクリーム・脱脂濃縮乳を使っている」(ブランド担当者)。これを急速冷凍などの技術で加工し「氷の結晶の細かいなめらかなアイスを実現した」(同)という。そして何より、アイスクリームを包むチョコレートを体温と同じ温度で溶けるようにコントロールすることで、口に入れた瞬間になめらかに溶ける感覚を作り出した。
2005年の発売時、最初の半年間はやはり350円という高めの価格が引っかかり苦戦を強いられたという。しかし、粘り強い店頭での試食プロモーションが奏功し、小売店の秋の棚替えの時期に棚をしっかりと確保して消費者の人気に順調に火がついていった。
発売後に実施した消費者に対する定性調査では、箱入りアイス以外のプレミアムアイスと比較しても遜色ない評価を得られた。ハーゲンダッツに代表されるプレミアムアイスは「週末に気合いを入れて食べる」という用いられ方をする。
それに対して、6本入りのパルムは「平日に家の中でゆったりと毎日食べる」という用いられ方をしていることも明らかになった。当初想定通りのポジションにうまくはまっている。この消費者調査を受け、「毎日のちょっとしたぜいたく」=「デイリープレミアム」というメッセージもつむぎ出された。累計10億本ロードが始まったのである。
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