なぜ大田区は京急電鉄への怒りをおさめたのか杉山淳一の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年08月31日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

京急電鉄のための立体交差ではない

 2年前のダイヤ改正は、京急蒲田駅付近立体交差事業の進ちょくにより、上り線が高架区間になるために実施された。今年のダイヤ改正は、上下線の高架線路開通にともなって、蒲田駅の構造が変わるからだ。空港線の蒲田付近の線路が1本から2本となり、本線では各駅停車と優等列車の追い越しができる。京急電鉄が注力する都心や横浜からの羽田空港アクセスについて、列車が増発できる体制になる。

 こう書くと、京急蒲田駅付近立体交差事業が京急電鉄のために行われると勘違いしそうだ。しかし、立体交差事業の本筋は踏切廃止による渋滞の解消にある。東京都が主体となった道路交通対策事業である。

 京急蒲田駅は京急本線から空港線が分岐する駅だ。これらの路線には環状8号線や国道15号線など交通量の多い道路があり、京急電鉄の踏切のお陰で慢性的な大規模渋滞が発生していた。このうち、空港線が国道15号を横切る踏切は全国的にも有名だ。箱根駅伝の難所の1つとして、お正月にテレビで生中継されている。

 この踏切の渋滞の歴史は古い。環状8号線にかかる京急蒲田第5踏切は、高度成長期のモータリゼーションの進行によって渋滞が始まった。さらに京急電鉄の沿線人口増による増発、長編成化が拍車をかけた。1989年には、環八の上流側の墓所が移転し、道路が4車線に拡幅された。その流入量によって環八のクルマが増え、踏切渋滞が長くなった。

 そこで立体交差化の要望が高まり、1990年に国の国庫補助事業に採択され、1999年3月に都市計画が決定。翌年に事業認可された。足掛け22年、やっと渋滞が緩和される。ただし、この事業で最もメリットを受ける者は京急電鉄ではない。環八と国道15号を通るドライバーであり、排ガスの滞留に困っていた沿道住民であり、その多くは大田区民である。

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