販売戦略の視点からすると、イラストを重視するのは、店頭でのアイキャッチを良くすることが目的です。物語の出来ももちろんポイントになりますが、印象に残るキャラクターと表紙が、書店でまず手に取ってもらうための鍵となります。作家と合わせてイラスト担当(通称:絵師)がいかにキャッチーで目立つ表紙を打ち出せるかは実売につながる勝負どころで、作家と内容面の編集作業を重ねるのと同じくらい、絵師の選定とイラストのイメージ戦略の練り込みが大事にされます。
後述しますが、ストーリー形式にすることと合わせて、これらのイラストを重視したパッケージング手法を採用することが最近のストーリー型のビジネス書の特徴となっています。
もともとジュニア向けやジュブナイルと呼ばれていた作品群をライトノベルとくくり直したレーベルが、1990年代以降着々と伸びてきました。出版不況と呼ばれて久しい昨今でも、昨年末には講談社が講談社ラノベ文庫を作って新規参入するなど活況をていしています。
出版指標年報によると、文庫市場はここ数年ほぼ横ばいで2011年の市場規模は1319億円。しかし、ライトノベル(文庫)市場は2004年の215億円から2011年には274億円と大きく増加している様子がうかがえます。
年 | 新刊点数 | 推定販売金額(億円) |
---|---|---|
2000 | 6095 | 1327 |
2001 | 6241 | 1270 |
2002 | 6155 | 1293 |
2003 | 6373 | 1281 |
2004 | 6741 | 1313 |
2005 | 6776 | 1339 |
2006 | 7025 | 1416 |
2007 | 7320 | 1371 |
2008 | 7809 | 1359 |
2009 | 8143 | 1322 |
2010 | 7869 | 1309 |
2011 | 8010 | 1319 |
ビジネス書の書き手側の「ビジネス知識を読み手に伝えたいし、部数も伸ばしたい」という希望を実現するため、売れているジャンルやパッケージ手法ということで、ライトノベルに近いパッケージングを採用する動機が発生することとなります。
前回紹介した通り、ビジネス書の書き手の最大の課題はいかに読んでもらい理解してもらうか。そして、それ以前に手に取ってもらうかです。売れるための法則を適用できるなら採用するというのが、極めて普通のビジネス感覚でしょう。
一般書に比べてビジネス書がライトノベル化するのが早かったのは、おそらくこのビジネス感覚を強く持った書き手が一般書の作家層より多かったからでしょう。マーケティングの4Pなどを持ち出すまでもなく、販売強化につながる手法があるなら積極的に採用していくのはビジネスパーソンの基本動作です。
……とはいいつつも、あまりにキャラクターの個性が強くなりすぎてしまうと、ターゲットであるビジネスパーソンが敬遠してしまうので本末転倒になってしまいます。マンガ的表現が強すぎることを毛嫌いする人もいるからです。アイキャッチを強化しつつ、ターゲットが嫌悪しないようにするため、イラストやストーリーの作りをどの程度まで抑えるかは、各作品が試行錯誤を繰り返しているようです。
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