さて、「人の目」が私たちの行動に大きな影響を与えるということは、ビジネスやマーケティングの視点からも覚えておきたいことです。
例えばこんな実験があります。ある会社のドリンクコーナーでは、紅茶やコーヒー、ミルクは有料制です。社員が飲むたび、自分でお金を箱の中に入れる仕組み。オフィスグリコのようなものですね。
研究者のメリッサ・ベイトソンは、10週間にわたって、この会社で飲まれたミルクの量と箱の中に入っていた金額を調べました。なお、その際、1週間ごとにドリンクコーナーの目の高さに貼ってある写真を入れ替えていました。ある週は「花」の写真。別の週は自分を見つめているように感じられる「人の顔」の写真です。
その結果、花の写真の週は、飲まれたミルクの量に対して支払われた金額が少なめ。つまり、ちゃんと払っている人が少なかったわけです。ところが、「人の顔」の写真の週は、花の写真の週の2倍から3倍のお金が箱に入っていた。すなわち、ちゃんとお金を払った人が大幅に増えたということです。
興味深いのは、社員たちは、ドリンクコーナーに貼ってあった写真がどんなものであったかほとんど意識していなかったこと。毎週、花や人の顔の写真が差し替えられていたのに、それに気づいていなかったのです。これは、人の目がまさに“無意識に”人の行動に影響を与えていたことを示すものでしょう。人の目があることが人を‘無意識に’正直者にしたのです。
あなたなら、ビジネス・マーケティングにおいて、この知見をどのように応用しますか? そういえばオフィスグリコでは、カエル(ヨミガエルくん)の代金箱にお金を入れる仕組み。人ならぬ「カエルの目」があなたを見ていることが、高い代金回収率を達成できている秘密なのかもしれません。(松尾順)
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