大人たちよ「子どもに旅をさせよう」――何かを手にするはずだ杉山淳一の時事日想(3/4 ページ)

» 2012年08月24日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

子どもが旅で学ぶこと

 次の冒険は「東急電鉄のすべての路線の終点を見に行く」だった。その次は「東京近郊の国電のすべてに乗る」だ。電車賃がかさむ。「どうすればお小遣いを節約できるか」を考えて、国鉄が発行していた「東京ミニ周遊券」を知る。ところがこれは東京へ旅行する人向けのきっぷで、都内では買えない。東京からもっとも近い販売駅は静岡駅だった。静岡まで普通のきっぷを買い、静岡からは東京ミニ周遊券で帰り、その範囲の電車を乗りまくった。東京から静岡への帰路のきっぷは放棄する形になるが、計算上はそれでもモトがとれた。このときの私は小学6年生で、静岡往復が冒険だった。

 中学生になって一人旅が趣味となる。泊まりがけの旅は許してもらえなかったが、日帰りでどこまで行けるかを挑戦した。サマーキャンプの帰りにわがままを言って別行動をさせてもらった。高校生になれば“糸の切れたタコ”のようにワイド周遊券で遠出をするようになる。

 飲食店、販売店、宿、何かしてもらう相手は大人である。大人にバカにされず、親切にしてしてもらうには、どんな言葉を選んだらいいのか、隣に座った人と心地よく会話を始めるにはどうしたらいいのか。どんなときに話しかければ楽しく、どんなときに黙っていたほうがいいのか。

 こうして、私は同世代の少年たちよりも先に社会に馴染んでいく。他人を恐れず、堂々と渡り合い、それでいて不快にさせない。そんな性格になった。先生にとっては生意気な子どもに見えたかもしれないが、私はすでに、学校や教室という「社会」が本物の社会に比べて小さく、そこで起きる問題など些細なことだと理解していた。子どもだけのグループで遊びに行くときも「杉山君がいるなら」と友人たちの親は安心してくれたそうだ。

 そして、こうした旅の経験は、大学でアルバイトをするとき、就職するときの面接、そして営業マンとしてお客さまや関係部署と接するときに役立った。交渉術だけではなく、相手の出身地を聞けば、たいていは訪れた経験があったし、いつか必ず行こうと思っているところだった。話題に困ることはなかった。

静岡への一人旅で立ち寄った静岡鉄道の電車。地元では見られない電車に興奮した

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