もしドラだけじゃない! “ビジネスノベル”が増えているわけビジネスノベル新世紀(3/3 ページ)

» 2012年08月17日 08時00分 公開
[渡辺聡,Business Media 誠]
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“ノベリフィケーション”の流れ

 次に小説側の事情を見てみましょう。こちらも入り口は同じで、以前ほど本が売れない、純文学作家だと下手すると生活できるかどうかも難しい、という事情があります。

 ジャンルとして見ると、元気なのはミステリ、ライトノベル、アダルトの分野。この連載では取り上げませんが、特にアダルト系は、いわゆる“腐女子向け”とひとまとめにされる女性向けジャンル(ボーイズラブ)の伸びが著しく、ライトノベルと合わせてここ最近新レーベル立ち上げが続いている分野となっています。

 ミステリでは「殺人が起きて探偵が謎を解いて犯人を暴く」という古典的な形式が飽和した結果、謎解きの舞台をさまざまな分野に求めることとなりました。その1つが、経済小説と呼ばれるジャンルです。ビジネスの世界での人間模様やだまし合い、犯罪を1つの謎、あるいはトリックの構図として物語を仕上げるというものです。加えて、現代社会の様相も描けるということで作家の力量は問われるものの、新しいジャンルとして徐々に受け入れられてきました。

『ハゲタカ』(2004年)

 NHKでドラマ化された『ハゲタカ』(2004年)など、第一線のビジネスプロフェッショナルからも「実際のビジネス事案のごとくリアリティとすごみがある」と評されるような作品も登場。単なる創作のお話というだけでなく、実際に起きてもおかしくない仮想ケーススタディとして受け止められ、一種のビジネス書として成立している作品もあります。

 もともとビジネス書の欠点は、理屈やセオリーを描いても、どういう場面でそのセオリーを持ち出すのか、また実際に使うとどんなめんどくささや隠れた課題があるのかというイメージや雰囲気がいまいちつかめないことです。「公式は覚えたけれども問題が解けない」というものでは、実践力の強化には結びつきません。結果、「何となく分かった気になるけども身にならない」となることが少なくありません。

 ビジネススクールでは、何となく知っていることを実際使いこなせるまで持っていくため、ビジネスケースという企業の置かれた状況や課題をまとめたいわば事件資料のようなものを課題として提示し、学生に考えさせるという手法を採用しています。実際のビジネスに近い、はっきりとした答えのない状況を仮定して、クラス全体でいかに知恵を絞って事業課題を解いていくか、という実践的なトレーニングを積むための教育手法です。

 よくできたビジネス小説は、このビジネスケースと同じような効果を持っていると言われます。ひと昔前のビジネス小説は、新聞記者出身の著者が人間模様を描いていた作品が目立ちました。しかし近年では、例えば金融小説だと幸田真音氏、黒木亮氏といった実際にビジネス経験を持った作者が参入してきたことで、業務のリアリティを肌で感じ取れるような作品が増えたことからも、ビジネスケース的な側面が高まっていると言えるでしょう。

 こうした流れを受けて、最近のビジネス書は、

  • 物語の面白さを借りて、読者が入りやすくすること
  • 途中で投げ出さずに最後まで読み切ってもらえること
  • 読後満足感を高く得てもらうこと(本としての評判を良くすること)
  • 読みやすいようにキャッチーで手軽な作りに仕立て上げること

 を目標として意識するようになりました。この目標群を達成するための手法として注目され始めているのが、あるビジネスケースをストーリーを通じて語ることです。読者は主人公や登場人物の動きを追体験することで、仮想的なビジネス経験を積むことができ、理解が深められることとなります。

『V字回復の経営』

 もちろん以前から、物語形式のビジネス書には『ザ・ゴール』(1984年)や『V字回復の経営』(2001年)など、いくつかの人気作品がありました。しかし、それがさらにくだけた形となっているのが近年の特徴と言えるかと思います。

 物事をゲーム形式にするとユーザーコミュニケーションやサービス利用が改善されるという考え方を「ゲーミフィケーション」と呼ぶのと同様、この流れはいわば「ノベリフィケーション」とでも呼んでもいいのかもしれません。ストーリーにすることで知識をより伝えやすく、より理解しやすくする手法です。

 そしてひと言に物語形式にするといっても、小難しい話を連ねると、そもそもの目的であるカジュアルに読んでもらえるという目標は達成されません。よって、親しみやすい、あるいはキャラクターの個性が立ったパッケージ設計を要求されるようになります。この流れが強まった結果、ビジネスノベルからさらに一歩進んだビジネスライトノベルというジャンルが登場するわけですが、それは次回解説することにします。(第2回「ビジネス書+ライトノベル=“ビジネスライトノベル”の誕生」に続く)

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