もしドラだけじゃない! “ビジネスノベル”が増えているわけビジネスノベル新世紀(2/3 ページ)

» 2012年08月17日 08時00分 公開
[渡辺聡,Business Media 誠]

もしドラの二番煎じにとどまらない作品も

 まず、ビジネス書側の事情からひも解いてみましょう。

 ビジネス書に限らず、書籍出版業界全体の問題は、言わずもがなで販売部数が落ちてきていることでしょう。ビジネス書や実用書の世界は10年ほど前までは、初版でとりあえず数千部刷って、目指せ1万部、1万部を超えて2万部、3万部と伸びると、関係者から「おめでとう会をやってもいいですかね」という話が出るような状況でした。

 ところが、最近は5000部売れれば結構良い方という状況になってきています。初版が2000〜3000部、それでも全部さばけないかもしれない、となると、原価的にも厳しいラインを推移するようになっています。つまり、ビジネス書であっても「読んでもらえるために手を尽くす。それができないなら出せない」という構造が強くなっているのです。

 こうした状況下、世に出たのが冒頭で紹介したもしドラです。300万部近く売れたとなると、書籍全体の販売ランキングでも残る敵(?)は村上春樹氏の『1Q84』くらい。注目するなというのが無理な話でしょう。

 結果、「あれだろー、主人公を女の子、とりわけ女子高生とかにして何かお話にすればいいんだろ。簡単じゃねーか」という感じで真似して作られたであろう、いかにも二番煎じとしか言いようのない作品が生まれたのは事実です。

 しかし、「普通のビジネス書とか難しいし、読んでもいまいち分からないからいいや」と敬遠していた層が、「ストーリー形式だから読みやすいに違いない」と手に取る機会が増えたようになったことで、部数的にビジネス書の平均を大きく上回る作品が複数出てきているのもまた事実です。そして内容的にも優れたものも生まれ、単なる二番煎じではなく、1つの手法として理解定着したのです。

 この分野の先駆者的存在なのが、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』で名を馳せた山田真哉氏の『女子大生会計士の事件簿』シリーズ。ビジネス書というより、かなり小説寄りの作品ですが、2002年の第1作発売以来、シリーズ合計で100万部超という大ヒットとなっています。

 また“もしドラ後”では、入社したての女性社員が突然レストランの再建を命じられる物語を描いた佐藤義典氏の『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(2010年)が3万部超のヒット。続編の『新人OL、社長になって会社を立て直す』(2011年)も2万部を超えているということです。

『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(左、2010年)、『新人OL、社長になって会社を立て直す』(右、2011年)

 最近のビジネス書のコーナーで、やたらと若手女性社員や女子高生のイラストを見るようになったのは本という商材における新しい販売手法、プロダクトパッケージの技法にこれらのビジネス書の書き手が敏感に反応したという背景があります。

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