ホームチームの勝率が高くなる理由(1/2 ページ)

» 2012年08月17日 08時00分 公開
[松尾順,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:松尾順(まつお・じゅん)

早稲田大学商学部卒業、旅行会社の営業(添乗員兼)に始まり、リサーチ会社、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャー、システム開発会社などを経験。2001年、(有)シャープマインド設立。現在、「マインドリーディング」というコンセプトの元、マーケティングと心理学の融合に取り組んでいる。また、熊本大学大学院(修士課程)にて、「インストラクショナルデザイン」を研究中。


 多くの競技スポーツにおいて、地元で行われるホームゲームの勝率は、敵地で行われるアウェーゲームよりも高い。これは明確に数字として示すことのできる事実ですが、地元開催だと、ホームチームが勝つことが多くなるのはなぜでしょうか?

 よく言われる理由としては、次のようなものがあります。

  • アウェーチームは遠征の長旅で疲れているから
  • アウェーのゲームはしばしば過密日程になりがちで、アウェーチームの疲労が蓄積されやすいから
  • 地元のファンの熱心な応援、あるいは恫喝(笑)で、ホームチームのやる気が高まるから

 ホームチームが勝ちやすい理由はどれか1つに絞られるわけではありませんが、直感的に一番影響が大きいと思われるのは、やはり「地元ファンの応援」でしょうか?

 ところが、シカゴ大学ビジネススクール教授、トビアス・J・モスコウィッツらが、サッカーやアメフト、野球、アイスホッケー、バスケットボールなど、過去数十年に及ぶ膨大な試合データを緻密に分析したところ、上記3つの理由のどれも、ホームチームの勝率に影響を与えているという結果は得られなかったのです。

 では、何がホームチームの勝率を押し上げていたのでしょうか。

 それは、審判の「地元びいき」的な判定だったのです。ホームゲームとアウェーゲームで比較すると、ホームチームに有利な判定が下されやすく、一方、アウェーチームに不利な判定が下されることが多いということが数字として明確に現れてきました。例えば、野球で言えば、ホームチームのバッターは見逃し三振が少なく、フォアボールが多くなるのだそうです。

 ストライクかフォアボールかは、最終的には審判の主観的な裁量に委ねられています。もちろん、誰が見ても明らかなストライク、あるいはボールには、主観的判断はほとんど入り込めません。

 しかし、ストライクかボールかどちらか微妙なコースの時、審判は“無意識に”ホームチームに有利な判定をしてしまう。つまり、「ボール」とコールすることが多くなるため、見逃し三振が減り、フォアボールが増えるということです。

 サッカーでも、過去試合データを分析してみたところ、アウェーチームがファウルを取られる数が増えることが分かっています。

 とりわけ面白いのがロスタイムの違いです。ロスタイムは、選手交代や選手の負傷などによるゲームの中断時間を主審が裁量し、任意に決定できるゲーム延長時間ですね。過去の試合データの分析によれば、ホームチームが1点勝っている時のロスタイムは平均で「2分」ちょっと。

 逆に、ホームチームが1点負けている時のロスタイムは平均で「4分」と、ホームチームが勝っている時の2倍の長さになるのです。

 素直に考えると、ホームチームが勝っている時は、速やかにゲームを終わらせたい。逆に、負けている時は、できるだけゲームを長引かせ、ホームチームに得点のチャンスを与えたいという意図が主審にあるとしか思えないですね。

 しかも、1点差の接戦でない場合、つまり2点以上の差でどちらかが勝っている場合、ロスタイムは、常にほぼ一定した長さで違いがないのだそうです。これは、ロスタイムで2点以上の差を埋めるのはさすがに難しいと、主審が判断しているからだろうと推測できます。

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