なぜお坊さんがインドでMBAを取得したのか?MBA僧侶が説く仏教と経営(2/3 ページ)

» 2012年08月15日 08時00分 公開
[松本紹圭,GLOBIS.JP]

ニーズ=苦と読み替えるなら、マーケティング=慈悲

インド商科大学院に留学中の著者(写真左)

 さて、MBAプログラムでの私の専攻は、経営戦略とマーケティングです。お寺のマネジメントに最も関わりの深そうなものを選んだのですが、実に良い勉強になりました。私もご多分に漏れず、ドラッカー先生のお話に心動かされた1人です。

 例えば、短期的な利益の獲得に追われて忘れがちな企業も少なくないですが、ドラッカー先生が言うように、本来は企業の目的は利益の追求ではなく「顧客の創造」です。

 経営戦略は「私たちは誰にお仕えするのか」を明確にするところから始まります。お寺のお坊さんが「仏さまにお仕えしています」というのは経営論的にはちょっと違います。なぜなら、仏さまはお寺の顧客ではないから。私の見方では、お寺における顧客の創造とは、仏法を求める人間の創造、つまり心の真の自由を求める人間の創造です。よく勘違いされていますが、およそまともな宗教というのは、人間を縛るのではなく、自由にするためにあります。仏教は、私たちが自分で自分自身を縛っている「自我」というとらわれから、自己を自由に解放するものなのです。……つい話が脱線しました。

 マーケティングも重要です。「我々は何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問うこと。お寺の場合は、闇雲に仏教を売るのではなく、人の苦悩に耳を傾け、何を解決したいのかを明らかにすることです。顧客の「ニーズ=苦」と読み替えるなら、「マーケティング=慈悲」、つまり、縁ある人々の苦に寄り添う姿勢や活動こそが、お寺のマーケティングなのです。

 まず顧客からスタートするなら、お寺の仕事は漫然と「仏教を広めること」ではなく、「仏法を通じて縁ある人に対して心を支える価値を提供すること」であると自ずと知れるに違いありません。

 顧客の「ニーズ=苦」重視と言うと、「お寺が人間の欲望を追認するばかりで良いのか」とお叱りを受けることがあります。しかし、そこは既存のサービスだけでなくイノベーション、すなわち新しい満足を生み出すことで次を切り開いていけばいいのです。

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