コラム
» 2012年08月03日 08時01分 UPDATE

杉山淳一の時事日想:中国高速鉄道で、また事故が起きるかもしれない (1/4)

2011年7月23日、中国浙江省温州市で起きた高速鉄道の転覆事故から1年が経過した。中国政府は市民の批判を恐れて報道を規制しているという。しかし、本当に恐れるべきは批判ではなく、事故の再発だ。

[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 中国大陸は鉄道ファンにとって魅力的な大地である。田舎では蒸気機関車が現役の生活路線を運行しているというし、その一方で、高速鉄道の路線網も整備されている。民族問題など政治的にいろいろな意見はあるが、私にとってチベットのラサに到達する青蔵鉄道の列車は憧れの対象だ。なにしろ海抜5000メートル以上の路線で、世界最高地点の駅がある。そこはどんな景色だろうか。

 中国高速鉄道の衝突脱線転覆事故は、そんな気持ちを暗澹(あんたん)とさせた。残念な理由はいくつもある。まずは事故で犠牲者があったこと。私の大好きな鉄道が人命を奪った。福知山線脱線事故のような悲しさだ。そして、事故を起こした列車が、日本の鉄道技術を採用して作られた車両だった。さらに、鉄道側(政府側)が、原因について何も語らなかった。

 原因究明どころか、原因を研究すべき試料となる事故車両を埋めてしまった。埋める過程で子どもが救出されたと報じられ、生き埋めとなった犠牲者の存在が疑われている。その車両は後日掘り出された。しかし原因究明のためではなく、世界からの批判をかわすためのパフォーマンスだとも言われている。私は原因究明のためと信じたいが……。

 事故後1年の報道を見聞きする限り、政府や鉄道当局は原因究明や安全対策よりも、市民の政府批判を抑えるほうに力を注いでいるようだ。過日、フジテレビが事故現場の映像を流していた。追悼式も慰霊碑もなく、自動車教習所が作られた現場。そこに市民が献花し、警察官が静かに見守るようすを見せてくれた。

 ああ、現場の警察官にも心があるのだなと思う半面、市民が持参した大きな慰霊幕とおそろいの黒いTシャツを見て、これも政府側の海外向けのパフォーマンスではないかと疑ってしまう。報道規制のため、現場に中国のメディアはおらず、海外の報道機関しかいなかったからだ。

 中国政府は昨年末、この事故について「複数の人為的要因が重なった」と結論づけたらしい。では、その原因に対して、対策はどうしたか。これが聞こえない。

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