人間はロボットではないんだ――ムハマド・ユヌス氏が考える資本主義の次の世界(1/3 ページ)

» 2012年08月02日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 社会的問題の解決策を事業ととらえ、ビジネスモデルとして実現するソーシャル・ビジネスを提唱・実現してきたムハマド・ユヌス氏。ユヌス氏はバングラデシュのグラミン銀行創設者かつマイクロクレジット(少額融資)の創始者としてソーシャルビジネスに取り組んだ功績が認められ、2006年にノーベル平和賞を受賞した。

 前回の記事ではユヌス氏がバングラデシュにマイクロクレジットを普及させた過程について語った講演内容を紹介したが、今回はユヌス氏の行ってきたソーシャル・ビジネスは先進国にどのような示唆が与えられるかといったことについての会場とのやり取りの様子をお伝えする。

 →「世界には利潤追求のビジネスしかないのが問題」――ノーベル平和賞ムハマド・ユヌス氏

※この記事は7月25日に行われた日本政策学校主催のムハマド・ユヌス氏の講演「ソーシャル・ビジネスが世界の経済を変える!」の内容をまとめたものです。
会場の質問に答えるムハマド・ユヌス氏

明らかなトレンドに対して準備しなければならない

――講演で「20年後を想像しよう」という話がありました。日本は100年後、政治が無策でいると人口は3000万人、高齢者の割合は60%になると考えられています。また、同時に教育では格差が生まれ、学校の勉強についていけない人たちが将来の貧困層になると問題になっています。ソーシャルビジネスは没落する先進国に対して、どのような示唆を与えられるのでしょうか。

ユヌス かなり大きな問題をいただいてしまいました。私なりの考え方を述べますが、みなさんはどのようにお考えになるでしょうか。

 100年先といいますと、私にとってはちょっと遠すぎますね。10年でも劇的に変わる時代です。私は20年単位で考えていますが、100年先なんてとても考えられません。20年前に生まれた人たちは、あと数年のうちに子どもが生まれて、その子どもたちがみなさんを教えるような時代が来ます。いかにみなさんが原始的かということに、彼らはきっと驚くことでしょう。現在、みなさんの親の世代や年上の世代が、コンピュータの操作ができなくてバカにされているのと同じようにです。

 世界は急激に変化しています。今、中国はGDP世界第2位の経済大国ですが、2016年には世界1位となるでしょう。そして、20年後の2032年にも中国は1位であり続けるでしょうし、2位はインドとなります。この20年間で中国経済は、米国経済の2倍半の大きさになるでしょう。1位の中国と2位のインドを合わせると、それを除いた世界の経済より大きくなります。

 実際にはもっと加速するかもしれないですが、このトレンドが続いていくことは明らかです。待っていても来るものは来るので、私たちは準備しなければなりません。

 20年後には、パスポートの存在意義が問われる時代が来ます。なぜなら100年前はパスポートなんて必要なかったからです。例えば、英国がインドを占領した時、パスポートなんか持っていたでしょうか。そんなことはありません。ただ来て、占領してしまった。パスポートやビザを続ける意義があるのでしょうか。世界はどんどん狭くなりました。ですから、みなさんは世界全体を見て、より良い方向性について考えてください。自分たちから見えている世界の一部だけではなく、全体を見ながら行動してください。役割を見つけてください。

 日本は今、テクノロジーの領域でトップの地位に立っています。それが日本の持っている非常に強い力です。今の日本の若い世代は、そのようなテクノロジーを瞬時に吸収しています。今のみなさんの世代は、日本の歴史で一番パワフルな世代なのです。力がある日本の若者たちが、それを日本1国だけのために使うのであれば、本当にもったいないです。みなさんがクリエイティブな形でテクノロジーを駆使して、パワフルに世界を変えていってほしい、みんな一緒に住めるところとして変えていってほしいと思います。

 日本のパワフルな若者たちがテクノロジーを使って、クリエイティブにこのソーシャルビジネスという問題解決をするビジネスに取り組んでいけば、世界中の問題が変えられると思います。世界中の人々が、日本の若い人々に対して、経済大国だからという理由からでなく、敬意を表することになるでしょう。

 今でも世界には読み書きできない人たちが実際にいます。テクノロジーをみなさんがうまく活用することで、iPadのようなタッチスクリーンのデバイスで、80歳のおばあちゃんでも読み書きを学んだりできます。学習が楽しくなるように、ゲームで競い合うような形で学べるでしょう。制服を着て学校に行かなくても、テクノロジーの力を借りれば身近なところでも勉強できます。

 人間の脳の可能性は無限大です。その能力をどう使うかが、みなさんのチャレンジとなります。政治であれ、経済であれ、世界の人類のために問題解決にぜひ取り組んでください。

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