プレオープンイベントに集められた記者は、企業の広報マンの案内により、企業側が一番アピールしたい点を刷り込まれながら取材を進めることになるのだ。例えば、その商業ビルに欧州の老舗ブランドが入店する場合はこうだ。
「頑固なオーナー社長が初めて海外出店を許した唯一の商業ビル」といったウリが、無意識のうちに記者の心に刻まれ、記事の中に反映されていく。この老舗ブランドの部分を、頑固職人が営む寿司屋、あるいはガラス工芸品でも応用は可能だ。
あとは実際にオープン当日の事柄も記事になる。企業側が見込んだ入場者数に対し、「◯◯ブランドが牽引役となり、想定を上回る人出となった」といった具合だ。
一般紙、あるいはテレビのニュース番組で、この手の同じような切り口の記事に辟易している読者は少なくないだろう。
過日、民放の若手の経済担当記者と会食する機会があった。この記者が世間話の中でこんな話を始めた。
「夏休みで記事が薄くなるので、ヒマネタを用意する必要がある」
私にも経験がある。業界用語でこうした状態を“夏枯れ”と呼ぶ。企業が夏休みに入り、取材したい相手がいない、あるいは会社自体が休んでしまうのだ。
だが、この若手記者は次のように言った。
「◯◯デパートの□△さんに頼んで、いくつか売れ筋商品を取材して、囲み記事を作っておきます」
これでは企業の思うつぼだ。記者の疑問点、取材する起点がそもそも抜け落ちている。
私が現役の記者を務めていた10年以上前、こうした“内覧会”取材ばかりをこなしていると、口うるさい先輩からこんな嫌味を言われた。
「広報マンが見出しを付けてくれるような取材は、仕事ではない」
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