――「Goodbye, MD」という強烈なコピーでCMを打ったところ、ソニーの元先輩から電話が掛かってきたという逸話も紹介されていましたね。
前刀氏: ホントにすぐ電話が掛かってきました。「社内で問題になっている。刺激的すぎるから下げてくれないか」って。そう言われてもこっちも仕事ですからね(笑)。
――ある意味してやったりというか、まさにライバルが慌てたわけですよね。
前刀氏: 手応えを感じた瞬間でしたね。その後ソニーはネットワークウォークマンで対抗しましたが、発表会で安藤さん(安藤国威元社長)が製品を逆さまに持ってしまったり、後任のストリンガー(ハワード・ストリンガー元会長)も同じような失態をやってしまったり……。
――それは第1回で聞いた内容とも関連しますが、経営陣が製品を実際に使っていない、ひいては愛していないということに通じますね。
前刀氏: 大賀(大賀典雄元社長)さんのころまでは、社長みずから製品をモックアップの段階から手に取っていました。彼は一つひとつそれを見て、気に入らない点があればエンジニアが精魂込めて作ったものを投げつけたり、ボールペンでバリバリっと×印をつけたりとか目の前でやった。
――まさにジョブズと同じですね
前刀氏: 出井さん(出井伸之元社長)になったときに、「これからはエレクトロニクスじゃない」と宣言して、AOLなどのネットサービスに傾倒し、結局上手くいかなかった。そこでモノづくりの系譜は絶たれてしまったと思います。
そして今、サービスや自社の位置付けを俯瞰して見るという視点すら失われているように感じられます。どうしようもない状態に陥っている。
――現場の個々の担当者レベルでは一所懸命に取り組んでいるにも関わらず、ですね。
前刀氏: そうですね。ウォークマンを例にとっても、実際のところ音質はiPodよりも格段に優れています。
――ジョブズがあたかも革新的な製品を生み出し続けるような天才のように語られることもありますが、性能では劣っていたり、失敗作だったりも多い。
前刀氏: おっしゃるとおりですね。具体名は挙げませんがiPodシリーズを振り返ってもいつの間にか消えていたり、元に戻ったりした「新機軸」があります。スティーブが目を通しているにも関わらず、です。
――しかし、それでも時価総額世界一である。
前刀氏: それは提供しようとしている「価値」が確立されているからです。あくまで製品(プロダクト)はそのための手段であって、イノベーティブであるが故に時々失敗もある。でも、それだけの話なんです。
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